インドネシア 急激なEVシフト その一方で…

2024年11月20日放送 7:12 - 7:20 NHK総合
NHKニュース おはよう日本 (特集)

COP29では、気候変動対策について議論が続いている。温室効果ガス削減のため各国で普及が進められているのがEV=電気自動車。世界的に需要が高まっている。その動きを経済成長に生かそうとしているのが2045年までに先進国入りを目指すインドネシア。EVの製造に欠かせない鉱石、ニッケルの世界最大の生産国。世界的な潮流に乗って開発に力を入れているが、急速な取り組みに懸念も生じている。この夏、インドネシアで開催された国際モーターショー。韓国に中国、さらにベトナム。各国のメーカーがEVを出展した。EVバッテリーなどに欠かせないのがニッケル。経済成長につなげようとインドネシア政府は鉱石を加工しないまま輸出することを禁止。国内で付加価値をつける戦略を強力に進めている。インドネシアでは各地でニッケル産業への設備投資が進んでいる。首都ジャカルタの北東2500キロ余りにあるハルマヘラ島。ニッケル鉱山があり、6年前、中国などの企業が進出して工場を建設した。各地の工場では、地元で採掘されたニッケルの鉱石をEVバッテリーやステンレス鋼に使われる材料などに加工、出荷している。ニッケルの産業化が進む一方、足元では異変が。インドネシア最大のニッケル加工の工業団地の1つ。地元住民からはこの周辺で環境問題が起きているという指摘が出ている。ウィテタクリンさんは半世紀にわたり地元の海で漁を続けてきた。ウィテさんは採掘や工場の活動が活発になるにつれ、海底に泥が積もり、魚の生育環境が奪われている。地元当局によると、この周辺の去年の漁獲量は前の年と比べて3割近く減少。ほとんど姿が見られなくなった魚種も確認されている。
異変は生活に欠かせない水にも。工業団地に近い集落では、地下から水をくみ上げて使ってきた。ところが水質が悪化。飲み水として適さなくなった。水を購入せざるをえなくなった住民たち。費用は毎月の支出の1割に膨らんでいる。工業団地を管理する会社はNHKの取材に対して「すべての規制を順守して必要な許可を取得し、定期的なモニタリング結果では規制基準を満たしているとしたうえで土砂が海に流れ込むのを防ぐ対策や、飲料水を供給する設備の建設などに取り組んでいる」などとコメントしている。急速なEVシフトはさらなるひずみを生んでいる。島の衛星画像。6年前に撮影したものは海岸まで緑の森で覆われている。ことしの画像では、緑が失われ、土がむき出しになった場所が広がっている。地元のNGOはことしまでに失われた森林が6000ヘクタール余りに上ると指摘している。加工に必要な電力を賄うため工業団地には石炭火力発電所が建設されている。米国のNGOのことし1月の報告書によると、石炭火力発電所は5基建設され、今後さらに7基増える。温室効果ガスの実質ゼロ実現に向け、石炭火力発電所の早期廃止を掲げるインドネシア政府。ただ、企業がみずから使う電力を生産する発電所については対象外としている。地元で環境保護を訴える団体は政府の行動は矛盾に満ちていると訴える。経済の専門家、インドネシア経済法律研究センター・ビマユディスティラ所長は「国際社会の理解を得るためにも対策が必要だ」と指摘している。インドネシアのエネルギー鉱物資源相は国内のニッケル産業が盛んな一部地域で水質や健康に影響が出ているという認識を示している。一方で政府は環境への配慮は必要なものの経済成長には欠かせないという立場。経済成長と温室効果ガスの削減や環境問題どう両立させていくのか、知恵が求められている。


キーワード
ニッケルジャカルタ(インドネシア)ハルマヘラ島フィリピン国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議インドネシア経済法律研究センター

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