2023年12月7日放送 0:35 - 1:25 NHK総合

NHKスペシャル
食の“防衛線” 第二回 牛乳・肉・卵 タンパク源を守れるか

出演者
寺門亜衣子 
(オープニング)
オープニング

オープニング映像。

食の“防衛線” 第2回 牛乳・肉・卵 タンパク源を守れるか

この春、北海道の家畜市場で廃業した牧場が手放した300頭以上の乳牛が売りに出された。この1年全国で800戸以上の酪農家が離農した。「シリーズ 食の“防衛線”」第2回は畜産・酪農。日本人はコメの消費を減らす一方で牛乳や肉、卵などの畜産物から多くのエネルギーを摂るようになった。それらを生産するため日本は家畜の餌を海外に依存してきたが、飼料穀物の価格が世界的に高騰し畜産・酪農はかつてない危機に直面している。

キーワード
インド中標津町(北海道)
食の“防衛線” 第2回 牛乳・肉・卵 タンパク源を守れるか
飼料高騰で危機に食卓を守れるのか…

日本は家畜の餌の多くを海外に依存している。卵は97%が国産だが国内の餌だけで生産できるのは13%。鶏肉は自給率9%、牛乳・乳製品は自給率27%となっている。ドリームヒルの小椋社長は牛に与える牧草を買い付けにワシントン州を訪れた。牛の数を増やす中で自らの牧場で作る牧草だけでは足りなくなり輸入を増やしてきたが、年々価格が高騰し対応に苦慮していた。中国や韓国、中東などもアメリカからの輸入を拡大。さらにアメリカの牧草地帯では異常気象が頻発している。円安も重なり、価格は5年前の倍近くになっていた。餌の高騰で小椋社長の会社の経営はこの2年で一気に悪化し、経費の削減や金融機関との資金繰りの交渉に追われている。配合飼料の価格はこの2年で1.5倍になり、年間の餌代は約30億円で経営コストの7割にのぼり赤字に陥っている。トウモロコシの主要輸出国の一つだったウクライナでは戦闘が長期化し、中国では各地で豚ホテルが作られトウモロコシの輸入を急激に増やしている。アメリカではトウモロコシの4割近くがバイオエタノール向けに生産されるようになっていた。NASAなどが行ったシミュレーションでは気候変動の影響で今世紀末までにトウモロコシの生産量が24%減少する可能性があるとしている。生乳は地域別に農協などで作る指定団体が集め乳業メーカーに販売する一元集荷体制が組まれている。価格は指定団体と乳業メーカーとの交渉で決まるが、価格が上がれば消費者が買い控えるおそれがあるためメーカーも値上げには慎重。去年から1リットルパックで牛乳の小売価格は50円ほど値上がりしているが北海道の酪農家が受け取る額は12円/L程度上がっただけで、専門家の試算では餌代だけでなく光熱費などの高騰で生産にかかる費用は16.4円/Lあがっている。また酪農家の収入源だった子牛の価格も下がっている。飼料高騰で畜産農家も子牛を買い控えるようになり、ときには引き取ってすらもらえないこともあるという。

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なぜ海外に依存?戦後ニッポンの食卓

1961年に農業基本法が施行され、需要拡大が見込まれる酪農や畜産の規模拡大が謳われた。土地に限りがある日本は家畜の餌を輸入に頼る道を選び、戦後穀物の過剰生産に悩まされていたアメリカが日本へ輸出を狙った。アメリカは日本の食卓に向けて畜産物の消費を推進するキャンペーンを展開した。牛乳の消費も学校給食などを通じて拡大した。日本は1960年代以降トウモロコシの輸入を拡大し、世界一の輸入国となった。さらに日本はトウモロコシなど栄養価の高い穀物を与えることで大量の乳を出すよう改良されてきたアメリカの牛の遺伝子を輸入してきた。日本の酪農家は種牛の冷凍精液をアメリカから輸入し始め、1頭あたりの生乳生産量を1.6倍に増やした。生産性の高い家畜と海外の安い餌を前提とした大量生産システムが作り上げられていった。一方で日本の食料自給率は79%から38%まで低下。食品を輸入するだけでなく畜産物の餌を海外に依存していることも要因となっている。農業基本法制定当時の農林事務次官は「家畜の餌を国内生産する視点を欠いていた」と反省を書き残している。

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酪農・畜産の苦境 国はどう向き合う

中標津町にある「OSAKA FARMS」の纓坂さんは2年前に父親から経営を引き継いだ。総工費7億円をかけて牛舎を建設し、餌やりを自動で行える設備も導入した。経営規模を2倍にする計画だったがすでに暗礁に乗り上げている。多額の投資を踏み切った背景には大規模化を促す国の政策があった。酪農家の高齢化などで生乳の生産が減少傾向にあった2014年にバター不足が起き、翌年に国は投資の半分を補助する「畜産クラスター事業」を打ち出した。TPPによる乳製品のさらなる貿易自由化に向けた国際競争力強化も目的だった。さらに国は生乳の需要が増えるとして2030年度に生産を年間780万トンに拡大する目標を掲げ、餌が安く経営が順調だった酪農家たちは規模を拡大し生産量は増加した。その矢先に新型コロナウイルスの感染拡大が起きた。学校給食用の牛乳、観光の需要などが落ち込み生乳の生産が過剰になり、北海道の生産者団体が生産抑制を酪農家に要請する事態となった。国の事業を利用し規模を拡大した纓坂さんは、飼料高騰で赤字が続き借金が4億円近くにのぼった。ドリームヒルの小椋社長は50年前に親から牧場を引き継ぎ国内最大規模の牧場にまで育ててきた。小椋社長は「こんな状況になったらこの規模が足を引っ張っている」と話した。この1年半、全国で1100を超える酪農家が離農し、乳牛の数は5万6000頭以上減っている。国は食料・農業・農村基本法の来年の改正に向け議論を進めている。

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食卓を守れ!生産現場の模索

北海道・新得町にある大規模農場の若杉さんは牛舎で牛を飼う現在の経営を維持しながら、来年から輸入飼料に頼らない放牧酪農にも挑戦しようと考えている。広大な土地が必要となり、その多くは小規模で行われている。若杉さんは仲間と一緒に放牧を行っている小田牧場を訪れた。この牧場で1頭あたりに与える配合飼料は若杉さんの牧場の半分ほど。生乳生産量は3割ほど減るが飼料高騰の影響は限定的で利益は確保できている。去年できた日本メイズ生産者協会の代表を務めている北海道の農家、柳原さんのもとには酪農家や畜産農家から注文が殺到している。コメ農家だった柳原さんは国の減反政策のもとコメの生産を減らし大豆や小麦にシフトしてきたが、同じ畑で大豆と小麦を1年おきに作ると病気や害虫が増える連作障害が発生し収穫量も減少した。そこで11年前土壌を改良する効果があるトウモロコシに着目し、トウモロコシ、大豆、小麦を順番に植えると連作障害がなくなり収穫量も増えた。飼料用トウモロコシを作る取り組みは全国に広がり始めている。青森・七戸町では年々増える耕作放棄地をトウモロコシの栽培に生かせないかと考えた。種を植えたあと収穫までコメと比べ手間がかからないため関心を持つ人が増えている。現在国内で生産している飼料用トウモロコシは日本が輸入する量の0.1%以下にとどまっている。柳原さんは耕作放棄地を活用し、日本の需要の10%を目標にしている。専門家は畜産や稲作などあらゆる分野が連携し農地の活用を考えていくことが食料安全保障を確保するカギだと指摘している。

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終わりなき食料争奪戦

飼料の争奪戦はさらに加熱しようとしている。インドでは牛乳・乳製品の消費が急拡大しており、その量は日本の25倍以上となる年2億トンにのぼる。小規模酪農がほとんどだが大規模化の動きも始まっている。インド最大級のバヤラクシミー農場はアメリカから牛の精液を輸入し年々規模を拡大している。5年後には今の4倍となる1万5000頭に増やす計画。一方日本のドリームヒル小椋社長は輸入飼料を減らすため、これまで2回だった牧草の刈り取りを3回に増やした。

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(エンディング)
エンディング

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