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今、自衛隊はこれまでにない反撃能力の保有を目指している。専守防衛の基本方針のもと活動を続けている自衛隊だが、その現場では変化が起きていた。自衛隊による民間空港の利用も全国で拡大し、身近なところにも影響が広がっている。
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南西諸島では自衛隊の訓練が頻繁に行われるようになっている。この変化を推し進めているのは国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の安保3文書で、2022年12月に岸田政権が閣議決定した。3文書は中国を念頭に日本を取り巻く安全保障環境の急激な変化を強調したうえで日米同盟をあらゆる分野でより緊密にすると同時に、防衛力を強化するとしている。ことし中国艦艇による大隅海峡の通過が確認されたのはこの10年で最多の7回で、中国は活動海域を拡大させている。文書では反撃能力を打ち出した。7月には陸上自衛隊のミサイル部隊がオーストラリアで発射訓練を行った。12式地対艦ミサイルは将来の反撃能力に使われる計画。日本が保有を目指す反撃能力は敵基地攻撃能力とも言われ、相手側のミサイル発射基地などを攻撃できる能力を指す。安保3文書が閣議決定される1年前に政府に提出されていた政策提言では、反撃能力の導入が言及されていた。
提言をまとめた国家安全保障戦略研究会は、自衛隊の元最高幹部と元高官たち。現場で感じた課題を洗い出し政府に伝えようと議論を重ねてきた。議論の記録では当初から敵地を攻撃する能力が必要との認識が示されていた。元統合幕僚長の折木さんは現役時代、北朝鮮や中国のミサイルの能力向上を前により強い抑止力が必要だと感じていた。自衛隊はこれまで相手が発射したミサイルを迎え撃つミサイル防衛を柱とした体制を取ってきたが、近年新たなミサイルの開発などによりこれまでのミサイル防衛では防ぎきれないという指摘が出ていた。その解決策として敵地を攻撃できる能力の保有についての意見が相次ぎ、そこで専守防衛との関係が議論となった。政府はかつてミサイルなどによる攻撃を防ぐ際、他に手段のない場合は相手の基地を叩くことは自衛の範囲に含まれると答弁している。専守防衛から逸脱しないという見解を示す一方で政策判断としては能力を持たないという姿勢を堅持してきた。元陸将の磯部さんは専守防衛のもと現場では本来必要な能力や活動まで過度に制限されてきたのではないかと感じてきた。元防衛事務次官の黒江さんは議論の中で専守防衛の意義を強調した。研究会では専守防衛のもとでも敵地攻撃能力を持てるという政府見解を実践すべきだと結論、表現については反撃能力という言葉に修正された。
現在の12式地対艦ミサイルの射程は百数十キロだが、今後改良を重ねて射程を1000キロに伸ばす計画。防衛省関係者によると、さらに射程2000~3000キロの新たなミサイルの開発も検討されている。米国防総省が公表した中国の中距離弾道ミサイルの射程の範囲を示した図では射程は最大4000キロだった。同じような形で日本が将来保有する射程1000キロのミサイルが届く範囲を描くと朝鮮半島、中国に達し、射程3000キロの場合は中国の内陸に及ぶ。安保3文書は反撃能力について、武力攻撃が発生していない段階で先制攻撃は許されないとしているが、相手が武力攻撃に着手したかどうかを見極めるのは難しく判断を誤れば先制攻撃になる恐れもあると指摘されている。黒江さんは「自衛権を発動する時は国会の承認が必要」「本当に自衛権を発動する場面になったら議員1人1人の考えが問われる、そのときに備えて議論を深めなきゃいけない」などと話した。
7月、陸上自衛隊はオーストラリアで多国間訓練に参加した。海からの上陸作戦を専門とする水陸機動団は多くの戦場を経験するアメリカ海兵隊などとより対等な立場での活動を求められていた。政府は自衛隊の役割を時代とともに拡大させてきた。冷戦期から日本は主に攻撃を担う役割をアメリカ軍に委ね、自衛隊は守りに重点を置く体制をとってきた。その後アメリカの要請を背景に海外に部隊を派遣。さらに憲法の解釈を変更して集団的自衛権の行使を一部容認した。そして今、自衛隊により主体的に戦う能力の強化を求めている。水陸機動団は敵国に奪われた地域を奪還する訓練に参加。共同作戦を考えて日本に対し、アメリカ側は日本が単独で攻撃する作戦を切り出した。訓練では独力で戦う自衛隊の姿が目立った。
安保3文書で特に重視しているのが南西地域の島しょ防衛。最前線に立っていたのはこれまで災害派遣で中心となってきた陸上自衛隊施設科の部隊だった。施設科の森さんは中学生の頃に阪神・淡路大震災で活動する隊員たちを見て「人の役に立つ仕事に就きたい」と入隊し、以来施設科の隊員として活動し東日本大震災の復興支援などにあたった。今森さんたちの部隊は南西諸島の地上で戦うための備えに取り組んでいる。徳之島の海岸に障害物を設置した訓練で、森さんは入隊したばかりの10代の隊員など15人を率いていた。有事になれば施設科は敵に最も近い場所での活動を求められる。
安保3文書は戦いを継続する能力の向上を掲げている。先月、自衛隊の基地が攻撃で破壊され使用できなくなった状況を想定し航空自衛隊の戦闘機が大分空港、岡山空港にも戦闘機が着陸した。有事の際に空港を基地の代わりとして使うための訓練が各地に広がっている。全国で弾薬庫の増設も進められている。政府は約10年後までに130棟を新たに整備する方針を示しており、そのうち反撃能力を担うミサイルを保管できる大型弾薬庫の設置場所として明らかになっているのは青森県と大分県。防衛省は今ある弾薬庫に加えて大分分屯地に大型弾薬庫を増設するが、どんな弾薬を保管するかは明らかにしていない。射程の長いミサイルが保管されればここから運び出されるとみられている。弾薬庫に近い敷戸地区の元自治会長、宮成さんはことし2月に報道で弾薬庫の増設について始めて知った。住民の多くは弾薬庫があることを知った上でこの土地に住み始めたが、今回の大型弾薬庫の増設には戸惑いがあるという。宮成さんは弾薬庫周辺が攻撃されるリスクを懸念していた。先月上旬、初めて防衛省による住民説明会が開かれ住民など120人が集まった。説明会は1時間半で終了し、宮成さんは「全部が封鎖状態。もう包み隠さず話をしてほしい」「防衛の手段で話せないのがあるのはわかるが話してもらえる部分はあるのでは」と振り返った。
安保3文書の閣議決定から1年、自衛隊の変貌の姿を多くの人が知ることのないままでいる。折木さんは安全保障についてもっと議論をしてほしいと感じている。黒江さんは専守防衛のもとで何を変えようとしているのか国民に説明する努力が政府には必要だと考えている。大分分屯地では先月下旬に増設工事が始まり、2年後には1棟目が完成する予定。
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