- 出演者
- 有馬嘉男 一橋忠之 森花子
日本の漫画翻訳のさきがけとされる「はだしのゲン」は、1978年に英語で出版された。英語だけでなくロシア語やアラビア語など25の言語に翻訳され、昨年には作者の中沢啓治がアイズナー賞で表彰された。翻訳に挑んだのは素人だらけのグループだった。
オープニングの挨拶。はだしのゲンは全10巻で、前半は広島で被爆したゲンや家族が苦しみながらも生き抜くことがテーマ。後半はゲンが絵描きになる夢を見つけ、前向きに自分の道を歩む姿が描かれる。
1970年代、世界では反戦運動が巻き起こっていた。漫画好きだった大嶋さんは画家を目指して上京するもうまくいかず、何かが見つかるかもしれないとアメリカに渡り、平和行進に飛び込んだ。宿泊先のアメリカ人夫婦から、あなたは日本人なのになぜ行進に参加しているのか問われた。大嶋さんが日本から持ち込んだ原爆のパンフレットを渡すと「日本が戦争をやめないから原爆を落とした」「パールハーバーがあったから天罰だ」と言われ、言い返すことができなかった。周囲と話せなくなっていったとき、ジム・ペックという男が近づいてきた。彼は原爆投下を命じたトルーマン元大統領に直接抗議したり、人種差別に抵抗するデモに黒人とともに参加したこともあった。大嶋さんは話を聞いてくれるジムと語り合った。大嶋さんとジムは平和行進のゴールでアメリカ人たちに日本から取り寄せたはだしのゲンを見せると、女の子が涙を流した。英語版はないかと尋ねられ、大嶋さんはジムに「きみがこの本を訳すんだ」と言われた。大嶋さんは日本に帰り、中沢啓治を訪ねて翻訳の許可を得ると、協力してくれる仲間を探し始めた。友人たちのたまり場で呼びかけると、10人が無償で協力を申し出た。
大嶋さんは、なぜアメリカで平和デモに参加していたか今聞かれてもちゃんと答えられない、自分のような若者が多く1人で大決心をしたような気持ちはなかった、原爆のことになった途端にギクシャクして辛かったと話した。
東京ではだしのゲンの翻訳が始まり、すぐに難しさに気づいた。英語は左から読むため文の方向に合わせてコマの順番を逆にする必要があり、手作業で切り貼りした。広島弁やお経、浪曲はどう訳していいかわからず、メンバーは仏教の英訳本などを取り寄せて約していった。そんな中、日本文化を学ぶために来日していたアラン・グリースンが噂を聞きつけてやってきた。ベトナム戦争の真っ只中で育ち母国の無差別な爆撃に嫌気が差していたアランは、徴兵を拒否して反戦運動に身を投じた。はだしのゲンを読んだアランは、これほどシリアスな漫画はアメリカにないと驚いた。アランはとにかく英訳して配りたい気持ちが強かった、反発が来るか売れるかどうかは考えていなかったと話した。大嶋さんたちは資金集めに奔走し、200万円ものカンパを集めた。完成した本を800冊を刷り、ジム・ペックに送った。ジムは知り合いたちに勧め、評判はサンフランシスコまで轟いた。コミック編集者のレナード・リーファスさんは、うちで出版させてほしいと申し出た。世界最大級の企業グループ、ペンギンからも出版したいと言われた。しかし売り上げが思わしくなく、次々と絶版になった。
アランさんは、プロジェクトに参加したのは偶然だった、こんな漫画があることに驚いたと話した。漫画研究家のフレデリック・L・ショットさんは、はだしのゲンが英訳につながったのは、被爆というメッセージ性の強さと出版前からボランティアが翻訳していたことが理由と指摘している。アランさんは、単なる漫画でもなく説教でもない、アメリカがひどいと言うだけの漫画だったら乗り気にはならない、中沢先生が当時の政府の汚さをしっかり訴ええているところは感心した、2、3年の期間で売れていないから出版社がおりるという態度は許せなかったと話した。
在庫を抱えたアランさんは、日本とアメリカを行き来しながら次の出版先を探した。そんな中で、はだしのゲンをロシア語に訳していた翻訳家の浅妻さんと出会った。思っていたのは親交のあったウクライナ人女性のニーナ・ヴァシレンコさん。チェルノービリ原発事故で被爆し、体を壊していた。アランさんはサンフランシスコにある小さな出版社に行き当たり、出版してもらえることになった。アランさんたちは7年かけて翻訳し、2009年に英語版10巻が完成した。編集者はクラウドファンディングで3万ドル以上を集め、10年間で7000冊以上を全米の図書館に送った。はだしのゲンは若い世代に静かに広まっていった。
浅妻さんは、はだしのゲンは原爆の悲惨さだけでなくその先の人生に希望があるところで終わっているのが良い、踏まれても実りになる麦がテーマの一つになっている、中沢啓治がアイズナー賞を受賞しアメリカの世論は確実に変わってきているのを実感したと話した。
はだしのゲンの翻訳が始まって50年、翻訳者の輪は世界25以上の国に広がっている。中沢啓治は「人類にとって最高の宝は平和です」という言葉を遺している。
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