- 出演者
- 長谷川博己
オープニング映像。
中国・香港特別行政区、かつてのイギリス統治時代の象徴「ザ・ペニンシュラ香港」。アジアを代表するホテルの一つで、まもなく創業100年を迎える。バブル経済期からしばらく、香港は日本人観光客で溢れた。ピーク時は年間275万人も、高級グルメにブランド物のショッピングがお目当て。”強い円でお買い得!”と謳う時代だった。しかし、今や香港観光の主役は中国本土から押し寄せる旅行客。全体の7割以上を占め、彼らにとっては人気の国内旅行先。目的は話題の映えスポットで写真を撮ること。そんな香港で最近マニアックな日本人がやってくるのが、かつて違法建築が密集した”九龍城砦”があった場所。法の力が及ばない巨大なスラム街で、麻薬などの犯罪の温床で”東洋の魔窟”と呼ばれていた。中国へ返還される前に取り壊された。九龍城砦を舞台にした香港のアクション映画「トワイライト・ウォリアーズ」は、今年日本でも公開され異例のヒットとなった。そのセットを精巧に再現したのが、跡地にできた施設。映画の世界観を体験したいという日本人がやってきている。
九龍地区の一角にあるバードガーデン。鳥のカゴやエサなどを扱う専門店が並び、観賞用の鳥も買うことができる。香港では昔から鳥を愛でる文化が生活に根付いてきた。
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始まりは中国・清の時代。アヘン戦争でイギリスに負けた清朝は香港島を割譲し、香港はイギリスの統治下に入った。それから150年余り、1997年香港はイギリスから中国に返還される。この時中国は一国二制度を約束し、香港に50年間は経済や司法・言論の自由など高度な自治を認めた。2014年雨傘運動が起きる、選挙制度などに中国政府が介入を強めたため香港の人たちに危機感が募り民主化を求める声が強まった。その後も大規模な反政府デモが頻発し、双方の対立が激しくなっていった。そして2020年6月、反政府的な活動を取り締まる国家安全維持法が施行される。違反すると、最高で終身刑という重い罪が課された。言論の締め付けにより市民の声はかき消され、政府に批判的なメディア関係者や活動家など332人が逮捕された。
高級店が立ち並ぶセントラル地区には、人気のフレンチレストランがある。シェフは日本人の小西充さん、香港に来て13年。その前はフランスのミシュランの星付きレストランで腕を磨いていた。店はオープンから1年あまりでミシュランの一つ星を獲得した。しかし香港では、コロナ終息後も客足が戻らず飲食店の閉店が相次いでいる。増えているのは、ニッポンのチェーン店。強みは、デフレ時代に培ったノウハウ。スシローは35店舗、すき家は18店舗ある。香港版ドン・キホーテは10店舗を展開中、おととし進出したのはチョコザップで現在5店舗に拡大している。チョコザップはライバルに対し、価格やこれまでにないサービスで差別化している。
アジアの金融センターとして君臨してきた香港、今もその地位は変わらないがここ5年ほど戦略の見直しもあり、香港拠点の縮小や移転が目立つ。日本の地方銀行も減少傾向にあり、先月末信金中央金庫は香港の駐在員事務所を廃止した。香港で働いてきた日本人ビジネスマンは、身近に変化を感じていた。
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香港を拠点にビジネスを展開するのは、この街に住んで22年になる中込直樹さん。中込さんのオフィスは、雑居ビルの中。狭いスペースにシンプルなデスクのオフィスでは、やることはほとんどないと話す。香港は税率が低く海外との資金のやり取りも自由なため、貿易をするのに有利な環境が整っている。その利点を生かして、中込さんはこれまでビジネスをしてきた。きっかけは、中国の大学に進んだことだった。卒業後、香港でプラスチックを扱う日系の商社に就職した。そこで携わったのが、ペプシマンのボトルキャップ。会社は急成長を遂げるが社長が事業を広げすぎた結果、最終的に社長は”夜逃げ”したという。残された中込さんは、新たな会社を立ち上げ18年間コツコツと事業を広げてきた。九龍島の再開発地区にある西九龍駅から乗り込むのは、時速350キロを誇る中国の高速鉄道。その先に中込さんの香港ドリームがあるという。
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香港でビジネスを展開する、中込直樹さん。西九龍駅から中国が誇る高速鉄道に乗り込み、着いたのは広東省東莞市。一帯は世界の工場の中心地で、多くの日系企業が進出している。中込さんの中国での拠点は、隣接する2つの工場。作っている製品の多くは日本市場向けのもの。従業員は1200人、年商は約60億円。作っているのは全てプラスチック製のおもちゃで、部品の生産から組み立てまで全て行う。手がけるのは日本で生まれた誰もが知るキャラクター商品の数々、その数2000アイテム。丁寧に仕上げる商品は定評があり。中国は人件費などのコストが上昇しているが、日本向けの商品は価格が上げられないためコスト削減に努めている。大胆に進める機械化が功を奏していた。社員食堂が人材の確保には重要な場所だと言い、味や品数にこだわるだけでなく1日3食を提供している。
中込さんは今、ある対応に追われていた。原因は、4月にアメリカのトランプ大統領が各国に対する追加関税を発表したこと。中国から輸入する場合には、累計で145%もの関税を課すとした。アメリカの大手量販店に依頼されたベビーチェアは生産を停止した。するとその後、追加関税の措置を90日間停止するという連絡が入った。関税措置が停止している間に止めていた生産ラインを再開させ、アメリカに送ってしまおうという。しかし、中込さんも翻弄されているばかりではなく、すでに対策を打っていた。ベトナムのスタッフとのオンライン会議で映し出されているのは、ベトナム南部にある自社工場。その生産規模を拡張しようと、急ぎで増設工事を進めていた。中込さんは中国で行っている箱詰めなどの最終工程を、ベトナムに移すことを考えていた。これを「MADE IN VIETNAM」にすれば関税率を選ぶことができる。
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半月後の香港、急いで組み立てていた子供向けスクーターが期間内に出荷できた。しかし、関税問題は不透明なまま。激動するビジネスの最前線を、中込さんは今後どう見ているのか。中込さんは、「僕らのビジネスモデルは中国ありき」とし、中国を離れるつもりはないが、本社機能は香港のままがベストの状態だと話した。
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香港の街で忙しく働く、デレック・チュウさん。3月に48歳にして初めて車の免許を取得し、運転を始めたばかり。町中には駐車できる場所が少ないため、車を少し遠くに停め商品は走って届ける。これを1日何度も繰り返す。デレックさんはかつて民主派と呼ばれた区議会議員だった。2019年11月市民の抗議活動が続く中、香港の地方議会にあたる区議会議員選挙が行われた。香港で1人1票投じることができる唯一の選挙。この時、民主派は85%の議席を獲得した。誰もが”風が 変わった”と思ったが、その7ヶ月後”国家安全維持法”が成立し民主派の議員は締め出されていった。直後に始めた店で、売り上げの一部を逮捕された人々の差し入れに当てている。食べ物から生活用品まで並ぶ店内は香港製にこだわっているという。そんな店内には、香港の普通の書店では並ばない本の数々や、古いサッカーシャツが並ぶ。値段はやや高めだが、店のネット販売を利用する常連客も多いという。こうした支えで商売をなんとか続けてきた。
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この日早朝からバスに乗りデレックさんが向かったのは、香港に14カ所ある刑務所の一つ「大欖女懲教所」。多くの民主派が国安法違反の罪で拘留されている。約1時間後、友人との面会を終えてデレックさんが戻ってきた。
街には今年、国安法から5周年を記念した派手なネオンが飾られた。そこには、国威発揚のスローガンが並んでいた。この5年で活動家や多くの市民がイギリスやカナダ・台湾などに逃れた。国安法ができてから街に溢れたのが「疑わしきは すぐ通報を」の文字。警察のテロ対策部門が展開する、密告推奨のキャンペーン。香港当局によると、これまでに92万件の通報があったという。6月4日特別な日、この日デレックさんは配送を休み自分で店番をする。
1989年6月4日、中国・北京の天安門広場で民主化を求めた学生を、軍が武力鎮圧した事件。死者は欧米では、数千から1万人以上と言われているが、中国が発表したのは319人。香港中心部のビクトリアパークでは、毎年大規模な追悼集会が開かれてきた。犠牲者を思いキャンドルを灯すのが恒例。しかし、国安法以降行われていない。そして、今年の6月4日ビクトリアパークでは、3年前からこの日に合わせるように中国の物産展が開かれている。そこには多くの警察官が配置されていた。一方デレックさんはこの日、配送を休んで自ら店番をする。小さなキャンドル型のライトには天安門の文字があり、犠牲者の母親を支持するとあった。開店して1時間次々と客がやってきたが、デレックさんの店は警戒場所の一つにリストアップされているとして警察官がやってきた。取材班の顔もチェックされ、なにか言いたげな様子だったが警官は何も言わず立ち去って行った。しかし、ビルの外では警察がデレックさんの店にやってきた客の荷物検査をしていた。その夜、香港のとある場所で約30人が集まって密かに追悼式を開いていた。天安門事件を語り継ぐための集会だった。午後9時すぎ、デレックさんは店を閉めた。ビルの外にはまだ警官が立っていた。
天安門事件から36年が経った6月4日、深夜になっても香港ではビクトリアパークに近づく市民を警察が取り調べていた。かつて10万人以上が追悼に集まった公園をデレックさんが見つめていた。7月1日、香港政府のトップは国安法の成果を「歴代政府が果たせなかった歴史的任務を達成した、安全な香港を再建した」と強調した。
エンディング映像。
「ワールドビジネスサテライト」の番組宣伝。「自炊より外食が割安?」。