- 出演者
- 桑子真帆
地域で唯一の出産施設、先月最後のお産をむかえた。お産ができる施設が一つもない、分べん空白市町村が全国に広がっている。出産施設がなくなるという事態はなぜ対策が進んでこなかったのか?
オープニング映像。
出産できる施設が一つもない、分べん空白市町村は全国で1000か所あることがわかった。全市町村の約6割にのぼる。小山友美さんは去年7月に長男の碧斗ちゃんの里帰り出産で予期せぬ事態に直面した。実家のある高知県香南市は出産施設がない分べん空白市町村。車で30分ほどかかる高知市の病院に通っていた。予定日の3週間前に破水し、病院に向かったがその道中で碧斗ちゃんが生まれてしまった。近くの消防署に駆け込み、救急車で病院に搬送。低体温症となった碧斗ちゃんは一時、集中治療室に入院した。
なぜ分べん空白市町村は広がっているのか?静岡県の伊豆半島の南部で唯一出産できる医院があった下田市。今月、そこで生まれた最後の赤ちゃんが退院し、出産の対応が終了した。院長の臼井文男さんは、出産対応をやめた背景には少子化による経営の悪化があったという。約20年前は年間300を超えていた分べん数は徐々に減少し、3年前からは100件を下回るようになっていた。1件の分べんで医院が得られる収入は約50万円。その一方で、出産に対応するには夜勤の看護師などの人件費が必要。さらに、医療機器は定期的な更新が不可欠でそれぞれに数百万円かかる。多いときでは2000万円を超える赤字が医院の経営を圧迫するようになっていった。この医院が出産の対応をやめたことで、分べん空白地域はさらに広がった伊豆半島南部。医院に通っていた妊婦たちは伊東市か伊豆の国市の医療機関に転院することになった。どちらも車で1時間以上かかる。伊東市まで通うことになった笹本真琴さん。妊娠9か月、週1回片道1時間半かけて通院している。夫や親族は日中仕事があるため自分で運転して通わなければならない。出産予定日まで1か月をきった日、突然激しい腹痛に襲われた笹本さんは駆けつけた姉の車でなんとかクリニックまでたどり着いた。診察の結果は胃腸炎。陣痛ではないが、安全に出産できるのか不安が高まったという。なぜ分べん空白地域が広がったことで伊豆半島南部では地域の今後を心配する声があがっている。
分べん空白地域が広がるのは出産施設がなくなることによって起きる。全国の出産施設数はこの20年で約4割減少している。日本産婦人科医会の中井章人さんは、急激な少子化によって多くの施設が経済的に苦しい状態にある、なかでも産科クリニックは影響を強く受けていて、分べんの取り扱いをやめるクリニックが多いという。産科クリニックの新規開業も直近でな年間わずか5、6件になっているという。少子化が改善しない限りこの影響は続いていくと思うとした。国や自治体は市町村単位ではなく、県全体・エリアのなかで医療が完結するように整備しているという。国は医療の集約化・重点化、妊婦のアクセス支援に取り組んでいるが、全市町村のなかで約1割ほどとなっている。
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12年前に分べん空白市町村となった岡山県高梁市。独自に始めたのが救急車を活用して妊婦を出産施設に搬送する取り組み。ママ・サポート119と呼ばれるこのシステムは市内の妊婦のほとんどが登録している。出産予定の病院が持病などをあらかじめ登録することで、救急隊員が妊婦の状況を把握し、緊急時などに必要な処置をしながら迅速に搬送するのが狙い。登録した妊婦は登録用紙はお守りだと話す。国の支援が十分に行き届かないなか既存の救急システムを活用し、妊婦の安全を守ろうとしている。
病院が自ら費用を負担し、宿泊施設を設置する取り組みも始まっている。去年4月、札幌市にある病院は遠方の妊婦のために2部屋を準備した。室内にはキッチンや洗濯機などを完備。料金は1泊2000円で子どもやパートナーと一緒に泊まることもできる。緊急時には医師や看護師が駆けつけることができる。今月から宿泊している女性は病院から車で1時間以上離れた場所に住んでいるため、予定日の2週間前から生活し出産に備えている。個々の病院の努力だけでは限界もあるため、国や自治体がこうした取り組みを主導してほしいとしている。
妊婦の緊急時の搬送体制や宿泊施設などの対策は他の地域が参考にしていけるように、国が積極的に周知していく必要がある。財政的な支援をすることも重要。中井章人さんは集約化は国の計画通りには進んでいないと指摘。集約化は医師不足などの地域で病院を一つにまとめてその地域の医療の質を担保しようとしてきたが、日本には様々な病院がありハードルが高いのだという。市町村や病院間で解決するものではないので国や県が実効性のある政策を進めてほしいとした。
スウェーデン・ヴェルムランド。病院に隣接し妊婦が宿泊できる約60部屋のホテル。整備したのは行政、日本でいう都道府県。行政の予算で宿泊施設や搬送手段などを整備、助産院で妊婦健診などを担う体制にした。行政がお産のグランドデザインを描いている。
厚生労働省は今後のお産のあり方について、中長期的視点に立ち次の医療計画などの議論の場で検討する予定、集約化については明確な判断基準や指針を具体的に示すことも必要性を含めて検討するとしている。中井章人さんが考えているのは役割分担、お産を取りやめた施設に妊婦健診や産後ケアを担ってもらい、連携しながら地域のお産を支えていこうという仕組み。
最後のお産を終えた静岡県下田市の医院。出産の対応をやめたあとも新生児の健診や産後のケアなどを続けていくことにした。これからも地域で安心して子どもを生み育てていけるよう、できることを模索している。