- 出演者
- 合原明子 中村孝則
今日の主役は人々を引き寄せる美食。千葉県にある町では伝統の食文化を全面に押し出したところ、年間約80万人近い人が訪れるようになった。さらに首都圏には、世界の食通を呼び込める食文化が数多く眠っているという声も。世界が注目するガストロノミーツーリズムの可能性を伝える。
- キーワード
- ガストロノミーツーリズム
世界が注目するガストロノミーツーリズム。味わうことはもちろん、食文化を学ぶ、自ら作るなどの食体験をするためにその土地に赴くことを指す。千葉・いすみ市では、この街の食を目当てに年間45万人以上が訪れる。豊かな海と里山に恵まれたいすみ市は、農業や漁業などの1次産業の町。担い手の高齢化が進み、自治体は危機感を抱いていた。いすみ市 水産商工観光課の山口高幸さんが食に注目するキッカケは、10年前、街を訪れた人の言葉だと言い「手に取った伊勢エビ、マダコ、野菜、こんなにいいものがあるんだねっていう声が聞こえたんですよね」「食を柱にしたまちづくりをするっていう出発点ではあります」と話していた。食材の質には自信があった山口さんたちが売り込みをかけたのが料理人だった。料理コンテストなどを毎月のように開催した。フランス料理店オーナーシェフの杉本敬三さんとの出会いが転機となった。頻繁に街を訪れるようになった杉本さんは料理人の仲間に魅力を発信してくれた。こうしていすみ市を訪れる人が少しずつ増えていった。食材の評価が高まる中で、若手農家も育っていった。市内のトマト農家の石野篤史さんは、糖度や酸味が増すというできるだけ水をあげない栽培方法に挑戦してきた。料理人から意見をもらい味を改良。高級レストランから注文も入るようになった。 いすみ市では宿泊施設が続々と開業している。売りにしているのは地元の食材を使った料理。いすみ市の食材は町の宝になった。いすみ市の太田洋市長は、観光客を「100万人まで5年後に引き上げていすみ市の魅力をさらに食を中心に発信していければ」などと語っていた。
さらに目に見えず味もないあるものが人を集めている地域も。千葉・神崎町で人を呼び寄せているのが麹。酒蔵が主催する発酵文化体験ツアーには、国内外から旅行者が訪れる。この日は国内に住むアメリカ人の一行が参加した。江戸時代から酒や味噌などの発酵食品を生産が盛んで、関東の灘ともいわれていた神崎町。2012年、老舗が次々と店を閉める中、伝統を残そうとはじめたのが酒蔵まつり。人口6千人ほどの町に1日2万人超が訪れた。これをきっかけに町が未来を託したのが、発酵のまちづくり。9年前には発酵をテーマにした道の駅を建設した。その2階で発酵食品の体験講座が行われていて、毎回満員。道の駅の来訪者は年間85万人を超えるまでになった。発酵の町づくりは食文化の掘り起こしにもつながっていて、町内に11ある飲食店は発酵食品を使ったメニューを開発した。この店で使っているのは地元特産のピーナツ味噌。今ではこの味を求めて全国各地から観光客が訪れるという。
世界のベストレストランを選出するアワードで日本の責任者を務める中村孝則さんは、ガストロノミーツーリズムの可能性について、外国人観光客の訪日前の期待は日本食、食文化が楽しみで来ると説明。2023 世界のベストレストラン50アワードの第1位がペルーのレストランで評価されたのが生態系・古代からの風土の表現。ペルーは高さで料理が変わる文化があるといい、海抜ゼロの料理と海抜3000メートルの料理の写真を解説した。世界では地方で輝くレストランが注目されているといい、そこをめがけて旅をするようになった、レストランは生産者や色々な人が経済圏を作ってそこが潤うという流れにここ15年位でなってきているという。国は今年度国内の13の地域を選んでガストロノミーツーリズムの推進を後押ししていて、そのうちの一つが神奈川・三浦。
三崎のマグロに三浦大根。神奈川・三浦市ではこうした名産を求めて年間約400万人が訪れている。さらなる進化を遂げようと富裕層の誘致をしようとしている。プロジェクトのリーダーの三浦市 市長室室長の徳江卓さんが探しているのは、新たにレストランを作る場所。名産品に地元ならではの景色をかけあわせた唯一無二の食体験を作り上げることを目指している。1年かけて選んだのは相模湾が望める場所。ここにガラス張りのトレーラーハウスを設置し、海越しの富士山という絶景とともにフルコースを食べてもらおうという。メニューの考案を頼んだのは東京の第一線で活躍する料理人。ジャガイモをまとった黒潮金目鯛などで、和のスペシャリストの新井徹さんは、とにかく三浦の食材で美味しいものを出す、それだけ、等と話した。1月下旬、三浦市の招きで食通の外国人建築家などが訪れた。いよいよ試食会。考案された金目鯛とじゃがいもの包み揚げ、サザエのスープが出され、とれたて野菜サラダについては「こんなにおいしいサラダを食べたのは初めてです」との評価があった。一方で、食材だけでなく調理法からも三浦の伝統や文化を感じたいという指摘もあった。徳江卓さんは、必ずストーリーがあると思っていますので、その食材一つ一つにですね、そういったことをしていかなければツアーとして成立させるのは難しいと感じた、などと話していた。
中村孝則はガストロノミーツーリズムは、そこにわざわざ行かないと食べられないもの、これをいかに提供するかが重要なポイント、必ずしも高級食材をみんなが求めているわけではなくそこでしか体験できな食体験が重要なポイントになってくると説明。中村は美味しいものには2つ種類があると思っていて、味覚的な美味しさ、それとは別に学びながら食べていく、徐々に美味しさが分かっていく美味しさがあるといい、これを文化的な美味しさだと思っていると言いふきのとうは、自然の風景が思い浮かぶ、イメージと苦味合わさった時に味覚ゾーンができたと思っているなどと話した。日本はどの地域も食の宝庫だと思う、それを自分たちで見つめ直して伝えていくという作業が必要だと思う、いらした方に伝えるのはもちろん、自分たちが場合によって海外に出向いて伝えていくのも必要じゃないかと語った。
- キーワード
- ガストロノミーツーリズム
東京・池袋のフレンチシェフ 木村藍さん。店で使う食材の多くはふるさとの千葉県いすみ市産。毎週、いすみ市の畑を訪ねて生産者と交流を重ねる。木村藍さんは生産者から聞いた収穫までの物語を伝えている。木村藍さんは、食べるっていうのは人の気持ちを豊かにしてくれるものだと思うので、そういうものを総合的に文化としての食ととらえることがガストロノミーなのかなって思います、と話していた。