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日本で当たり前で身近にある魚。その未来が危ぶまれている。世界的な水産物の需要拡大で各地の海で争奪戦が激化している。世界の水産資源のうち過剰に捕獲されているものの割合は増加し、4割近くに達する。過剰な漁獲は水産資源の枯渇にもつながる。問題視されているのはIUUと呼ばれる違法、無報告、無規制の漁業を行う船たち。IUU漁業は他国のEEZに入り許可なく漁を行うことや、決められた数以上を漁獲したり、禁止されているものを獲ったりする規制違反。さらに、魚の量をごまかしたりする過少申告など。IUU漁業を行う船は暗黒船と呼ばれる。広大な海で船の位置を消し、闇に紛れて漁をする。デジタル技術がその動きを捉え、世界で監視の目が光る。
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- IUU漁業国際連合食糧農業機関
オープニング映像。
南太平洋で行われたニュージランド当局により漁船の立ち入り検査。不正に漁獲されたマグロがないか調査する。南太平洋は常にIUU漁業のリスクにさらされている。ニュージランドでは漁業は基幹産業の一つ、資源保護に積極的に取り組んでいる。この海でIUU漁業の取り締まりに携わるフランシスコ・ブラハさん。専門はマグロ。太平洋諸島地域の漁のルール作りを務めてきた、元マグロ漁師。海を守ることにかけては人一倍熱い思いがある。太平洋を監視するのに使うのはニュージランド生まれの船舶の追跡ソフト・スターボード。人工衛星などでとらえた船の位置情報を可視化し、漁船のみを検出する。情報はほぼリアルタイムで船を追跡できる。過去の行動を蓄積したデータベースやAIを使ってIUUリスクの高い船だけを選び出すことが可能。マグロは回遊性の魚のため、その保護には国境を越えた連携が必要。ブラハさんがIUU漁業の疑いのある船の取り締まりに貢献した事例がある。きっかけは漁師仲間の連絡だった。ブラハさんが調べるとキリバス周辺で不審な動きをする船があった。マグロを運ぶ冷凍運搬船、韓国の船だった。運搬船はキリバスのEEZ内に入るとジグザグに航行しながら走行。ブラハさんはFADsと呼ばれる集魚装置を流したのではないかと考えた。流木などの下に群れるマグロの習性を利用し、GPSなどがついた装置を設置してマグロをおびき寄せる。ブラハさんは運搬船はキリバスのEEX内でFADsを落としながら移動し、キリバスの海域から引き出したマグロを仲間の漁船が引き揚げたのではないかと考えた。運搬船が許可なくキリバスのEEZ内でFADsを流していたとすれば明らかな不正。ブラハさんが船を追跡するとタイに向けてかじをきりはじめた。支援を求めたのがタイで漁業監視を行う環境NGO職員のドミニク・トムソンさん。トムソンさんはタイ当局とともに港で船を待ち受けた。ブラハさんが見守る中で立ち入り調査を行うが乗船を拒否された。このときに活躍したのは船舶の追跡ソフト・スターボードだった。タイ当局はFADsを流していたのかと尋問すると、船長は否定した。海に放たれたFADsは波で流され分散する。ブラハさんは確認されていた規則的な航跡でのFADsの回収は不可能だと指摘した。ブラハさんたちの調査結果を元に、タイ当局は韓国の運搬船の寄港を拒否。IUUの疑いがあるとして10億円相当のマグロの荷卸を水際で阻止した。
IUU漁業の監視を続けるブラハさんがとりわけ警戒する海域は公海。各国のEEZの外側にあり、どこの国にも属さない公の海。公海では自由に漁ができる一方で監視の目が行き届かないため、暗黒船の活動が活発な海域でもある。公海でブラハさんが追跡する船が頻繁に行う動きがあった。漁船と運搬船が合流し、並走する様子が見られた。この間に転載が行われていたとみられる。転載は漁船が釣った魚を運搬船などに積み替える作業のこと。漁の効率化につながる一方で、複数の漁船からの転載により魚が混ざると、漁獲した場所・量が追跡困難になる。IUUで不正にとった魚をごまかすこともできるという。このためマグロを管理する国際機関は転載を特別な理由がない限り認めていない。禁止されているはずの公海上での転載だが、公海上で集中して行われている。ブラハさんはスターボードの技術者に協力を依頼。調べると不自然に長距離を移動する船が見つかった。船は漁を行った後、近くに荷物の積み替えができる港があるにも関わらず素通りし、公海上で転載を行っていた。寄港するのに比べて5倍以上の距離をわざわざ移動したことになる。事例を解析したところ、多くが公海上で転載するために長距離を移動していた。ブラハさんたちは調査結果を国際機関に提出し、公海上での転載を規制するための本格的な議論がはじまった。
大西洋で漁をする中国の遠洋漁業船の映像。世界各地の海で最も積極的に漁を行う国が中国。漁獲量は全世界の2割近くを占める。水産物の加工にも力を入れ輸出額は世界最大。遠洋漁業船の登録は約2500隻と世界最多。謎の多い中国船の実態をデジタルの力で明らかにした団体がグローバル・フィッシング・ウォッチ。世界各地で行われる漁業活動をデジタルを駆使して監視している。中国船の特徴の一つは漁業時間の長さ、分析すると韓国の4倍にあたる約200万時間の漁業活動が確認された。長年、世界の海で漁をしてきた日本のマグロ漁船の船頭も度々、目撃していた。南太平洋でとらえられた中国の漁船は航跡に特徴がある。日本船は縄入れをして回収しているが、中国船は仕掛けと回収を休みなく繰り返しているとみられる。
世界で操業する中国船を監視し続けているのが環境NGO・EJFのスティーブ・トレントさん。NGPの元には中国船でとられたという映像や写真が数多く寄せられている。船員がおかれた劣悪な環境を示す映像の他に、動物を残忍な方法で殺害する方法もみられた。NGOでは乗組員からの聞き取りを重ね、違反行為を行う船舶の特定を進めてきた。乗組員などの証言は千人以上でそのほとんどがインドネシアの出身。彼らはとくにインドネシアの経済的に貧しい地域から出稼ぎに出ていた。
取材を進めると、中国がより巧妙な手法で資源の囲い込みに乗り出していることが見えてきた。ガーナの首都アクラにある港の衛星画像を確認すると、この5年で大きく様変わりしていた。衛星が捉えていた場所には近代的な港と複合施設ができていた。市場や船の修理工場もあり、総額70億円を超える開発事業。中国政府が資金協力を行ったという。ガーナの10万人以上の漁師が登録する漁業組合の代表ソロモンさんは資源は枯渇しつつありその大きな原因が中国だと話す。ガーナでは魚は欠かせない食材。手頃な価格で手に入るため料理の多くで使われている。国民の動物性タンパク源の約6割を魚が支えているとも言われる。ガーナでは代々小規模な漁が行われてきた。今ガーナのEEZ内を闊歩するのは機会化された大型トロール船。儲けにならない魚は捨てられている。こうした大型漁船はガーナ船として登録されているが、船体には中国語の表記。ガーナの大型船のほとんどが実質的には中国人によって所有されているという。開発支援という名のもとでその国の水産物を獲得する中国、それはガーナだけにとどまらない。米国戦略国際問題研究所は中国が世界で行う漁業プロジェクトの調査を行っている。世界各地で700億円を超える規模の計画が進んでいるという。
海に囲まれた日本、食卓にのぼる水産物の4割は外国からの輸入品。豊洲市場はマグロ取り扱いで世界最大級の水産市場。マグロの約半数が輸入品、高値で取引されるためIUU漁業の対象にもなりやすい。マグロには漁獲制限があり、ルールから外れたマグロは闇マグロと呼ばれその流通に市場関係者は神経を尖らせている。闇マグロは漁師たちに深刻な影響を与えている。この日、インド洋から戻った日本の遠洋漁業船。半年かけて漁獲した70トンのミナミマグロが水揚げされた。ミナミマグロは南半球で取れる魚種で高値で取引され資源保護の対象となっている。遠洋マグロ漁業会社社長の臼井壮太朗さんは資源管理の厳しいルールを守っているにも関わらず売値が低いことに頭を悩ませていた。安値の原因と疑うのは海外から流入する闇マグロ。IUU漁業を監視しているEJFは不正にとられた可能性のあるマグロの主な販売先が日本であることを度々指摘している。マグロ漁船を追跡すると運搬船と接触ししばらく並走し転載する動きがみられた。運搬船は日本へ向い、静岡県の清水港に入った。運搬船は日本の港でマグロを降ろしたのか?詳細を調べるために情報開示請求を行った。書類から運搬船から荷物がおろされていることがわかった。積荷の内容欄には冷凍の魚と記載されマグロかどうかは不明。この運搬船は日本の会社であることがわかった。会社に取材を申し込むと、他の企業からの依頼を受けて中国のマグロ漁船の荷物を運んだこと、冷凍の魚はマグロであることを認めた。しかし、輸入元の情報については開示できないと回答。IUU漁業が疑われる中国漁船がとったマグロは日本に運ばれ、冷凍魚として荷揚げされていたとみられる。マグロのその後の流通については追跡することができなかった。
マグロの輸入に関してルールがどうなっているのか水産庁を訪ねた。水産庁が受け取ったマグロの輸入申請書類、資源保護の対象魚種は輸入の際に漁獲証明書などの提出が義務付けられている。漁獲管理をどのように行うかは各国の手に委ねられている。相手国の管理への信頼を前提にしてマグロの輸入は認められている。
豊洲市場で輸入マグロを取り扱う卸業者。マグロの由来を確認する手立ては納品書だけ。日本では輸入が承認されて以降、輸入元がマグロの詳細な情報を開示する義務はない。卸業者は海外からの闇マグロの流入を防ぐことの限界を感じている。水産物の流通に詳しい勝川俊雄さんは日本のチェック体制のあまさを問題視してきた。闇マグロを防ぐためには魚の漁獲から消費者に届くまでの情報を記録し追跡できるトレーサビリティの導入が必要だと語る。ノルウェーでは漁獲から販売まで政府が一貫して情報を管理している。日本でのトレーサビリティ実現のためには私たちの意識も問われている。マグロ漁船を率いる臼井さんは一歩を踏み出した。大手スーパーとともに自分たちの船がとったマグロだとわかるようにして販売。QRコードを読み取ると臼井さんの会社のHPにつながる。ニュージランドのブラハさんは愛する海の未来を守るためにこれからも活動を続けていく。
エンディング映像。
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