- 出演者
- 長谷川博己
オープニング映像。
近年日本列島を襲う猛暑。8月5日には、群馬県で41.8℃。国内観測史上最高記録を更新した。気象庁によると残暑も厳しく、11月まで平年以上の暑さが続くという。深刻化する地球温暖化、その主な原因とされるのがCO2の排出。ガソリンなど化石燃料から出るCO2を減らすことが今や世界共通の課題になっている。その難問を解決するかもしれない壮大なプロジェクトが、今鹿児島県種子島で進行中。キーマンは、東京大学特任教授の小原聡さん。車で移動中の小原さんの視線の先には、一面に広がるサトウキビ畑。島の基幹産業だという。やって来たのは、九州沖縄農業研究センター。小原さんは20年にわたり、ここの研究員とともに新種のサトウキビ作りを進めてきた。その成果が「はるのおうぎ」という品種。従来種に比べ収穫量が約3~5割多いのが特徴。台風に見舞われることも多く、強風が吹き抜ける種子島。従来種はその影響を受けやすく、根本が曲がり絡まりがち。一方「はるのおうぎ」はまっすぐ育ち、機械での収穫にも適している。この「はるのおうぎ」が小原さんの挑むプロジェクトの可能性を一気に高めてくれた。小原さんはかつて企業でバイオ燃料の事業化に取り組んでいた、挫折を乗り越えバイオの炎を燃やす。
東京大学・先端科学技術研究センター。小原さんはバイオ燃料一筋の研究者。研究室には賞状や盾がずらりと並んでいた、中でも3年に1度開かれるサトウキビの国際学会で2016年に最優秀論文賞を受賞した。小原さん、以前は大手ビール会社の研究員だった。20年前、沖縄の伊江島に向かう小原さんをカメラが追っていた。小原さんはビール以外の新規事業として、サトウキビからガソリンに代わる自動車燃料バイオエタノールを作ろうとしていた。会社の片隅に自らサトウキビを植え、その可能性を試すなど日夜研究に明け暮れた。そして、たった1人で会社を動かした。実証するための実験工場を伊江島に作ってもらい、苦労の末バイオエタノールを完成させた。国産バイオ燃料が事業化できる可能性を示したのだった。ところが、アサヒは海外のび~る事業を買収するなど、本業への回帰を鮮明にする。小原さんの研究は本格的な事業化を目前に控え、中止の憂き目を見ることになった。会社を辞めた小原さんを受け入れてくれたのは、東京大学の杉山さんだった。小原さんの研究の先進性を買ってのことだったという。居場所を得た小原さん、東大を中心に20の企業などが集う新たな仲間を得て、リベンジの炎を燃やした。プロジェクトの軸はサトウキビ、多くの仲間が知恵と技術を持ち寄り新しいエネルギー事業に結びつけようとしている。舞台は種子島、サトウキビからバイオ燃料を作る事業に改めて挑む小原さん。やめろと言われても挑戦を諦めない小原さんのもとに、大きなチャンスが訪れる。
ガイアの夜明けはTVerで配信。
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舞台は鹿児島県・種子島。新種のサトウキビ「はるのおうぎ」を武器に、バイオ燃料を事業化したい小原さん。アサヒビールで叶わなかった夢のリベンジに燃えている。そんな小原さんが頼りにするのが、サポートしてくれるプロジェクトのメンバーたち。その1つ、種子島唯一の製糖工場「新光糖業」。企業の研究者だった時代から、実験などに協力してくれている。ここに、小原さんの思い入れのある設備がある。以前使っていた実験用の設備、アサヒから買い取ってもらうことでその後も実験を続けてこられた。砂糖もエタノールも原料は同じ”サトウキビ”。煮詰めた糖液から結晶となってできるのが、砂糖の素になるもの”粗糖”。粗糖を作った後にできる糖蜜、今は食品廃棄物として島外で処理しているが、糖分はまだ残っているためエタノールの原料として使える。小原さんは、この糖蜜からエタノールを作り島の中で活用してほしいと考えている。糖を発酵させてアルコールにするため酵母を加える、アルコール度数を95%まで高めるため必要なのが長年使ってきた蒸留塔。今ある設備を活かして1日約120リットルのバイオエタノールが作れる。まずは島内でバイオエタノールを事業化し、夢への第一歩を踏み出したい小原さん。しかし、砂糖の製造で手一杯の新光糖業は、事業化には慎重。新光糖業は、今ある小さな設備でエタノールを作っても売り先があるのかもわからず、迂闊には手を出せないと言う。
半月後に事件が起きた。廃棄物である糖蜜を引き取りにきていた回収船が故障、そのため工場のタンクが満杯になってしまった。新光糖業は18日間操業を停止する事態に陥った。すると、小原さんが呼び出された。新光糖業は今回の事件をきかっけにエタノールを事業化するメリットを感じていた。バイオエタノールの事業化、今度は上手くいくのか。その後、新光糖業の人手不足などが課題となり検討は続いている。
世界に目を転じるとバイオエタノールを使うことは、もはや常識。アメリカのガソリンスタンドで利用者が入れていたのはE-15、エタノール15%混合のガソリン。原料は中西部の農業地帯で大量に作られるトウモロコシ。政府がガソリン消費量の10%相当を、エタノールに置き換えることを義務付けている。他にも、ブラジルやインド、タイなどでも自国でエタノールを作り、少なくとも10%以上ガソリンに混ぜている。世界に遅れを取る日本もようやく動き出した。資源エネルギー庁が、6月に出した方針で「2030年度までにガソリンにバイオエタノールを最大10%混合させる」目標を掲げた。そのため、ブラジルやアメリカなどからエタノールの輸入を進めるとしている。こうした国の方針に自動車業界も賛同、日本国内でも2023年度時点で新車の4割がエタノール10%混合ガソリンに対応している。
未だバイオエタノールの事業化が叶っていない小原さん、向かったのはJAXAの種子島宇宙センター。ここも小原さんのプロジェクトチームの一員。この日見せてもらったのは宇宙センター内にある自家発電所、ロケットを安全に打ち上げるためにも停電は万が一にもあってはならないため、電力は自家発電している。発電機の燃料として使われているのは重油、石油製品であり使う分だけCO2を出す。年間約6000キロリットルの重油を使用すると言い、バイオ燃料を使うことでCO2の排出を減らしたいと考えている。一方、JAXA沖縄ではバイオ燃料で発電機を動かせるのか、日本初の試験が行われることになった。バイオ燃料である木材の炭を1000分の1ミリレベルに粉砕したものを重油に混ぜると言う、炭を混ぜて重油の使用量を減らす、これもバイオ燃料の新しい使い方。燃料を混ぜてくれるのは、化学メーカー「日本触媒」の河野さん。均等に混ぜるのがポイントだと言う。 そして、試す設備が停電時の予備用発電機。小型ながら種子島のものと同じく、重油で動くディーゼル発電機。テストの成否を左右するのが、粉末を含む燃料がノズルに詰まるおそれがあり、そうなると大変なことになる。小原さんたちが去年大分で試験した時の映像では、ノズルが詰まり不完全燃焼が起こり煙が出てテストをストップせざるを得なかった。液体の燃料に固形物を入れて発電すること自体、日本で初めての挑戦。成功すれば様々な用途で重油の利用を減らすことができ、CO2の削減につながる。試験当日、関係者やメディアが集まっており注目度の高さがわかる。カウントダウンして試験開始。すると、発電所の照明が消えた。
JAXAで始まる国内初の試み、小原さんたちのチームが用意したバイオ燃料で発電機を動かす。JAXAの田渕さんたちがカウントダウンして、試験開始。バイオ燃料を発電機に流し、正常に作動するかどうかを見る。発電機に燃料が行き渡ったところで照明のスイッチを切り、もう一度灯ればバイオ燃料で発電できていることになる。すると、電気がついた。試験は無事成功。使用したノズルを確認すると正常に動き、心配された目詰まりもない。今後は種子島産の炭で実験を重ね、実用化を目指していくことになった。
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- 宇宙航空研究開発機構沖縄宇宙通信所
小原さんの周りに集まった仲間が、知恵を出し合い支え合うプロジェクト。メンバーの1人は、今回の試験の前に神社に参拝しお守りを買ってきていた。小原さんの20年来の取り組みに共感し参加する各社、事業として成功させようとともに頑張っている。
種子島に戻った小原さん、重油に混ぜる炭の開発に動いていた。目をつけたのがサトウキビの搾りかす「バガス」。すでに種子島ではバイオ燃料の1つとして使われている、製糖工場を動かす重要なエネルギーになっていた。重油を使う場合と比べ、年間約8億円削減できている。収穫量が多い新種のサトウキビ「はるのおうぎ」、バガスの量も多く工場内のエネルギーとして使っても2割ほど残っていた。小原さんは、これを有効活用しようと考えた。
種子島から遠く離れた、金沢市の工場に小原さんがやってきた。ここは、有機物を炭にする装置のメーカー。すでに運び込んでいたのは「はるのおうぎ」のバガス。余っていたバガスを炭にし、重油と混ぜることができれば一石二鳥。バイオ燃料としてサトウキビの活用法が広がる。さらに炭を作る時に出るガスも冷やすと油が取れる、見た目はまるで原油。精製して分離すればプラスチック原料として使える、プラスチック製品をバイオ由来のものに代えられればCO2の削減につながる。実現すれば良いことづくめ。国産バイオ燃料への挑戦は一進一退、それでも小原さんは前だけを見ている。そんな小原さんに注目していた国があった、そこには大きな期待があった。
小原さんのバイオ燃料研究に世界が注目していた。この日、フィリピン政府の高官が来日した。東京大学とフィリピン政府が国際交流協定を締結、サトウキビからいかに効率よく砂糖とバイオ燃料を作るか、その技術を一緒に開発する。長官は種子島へも足を運んだ、エタノールの利用が進むフィリピンで、一足早く小原さんの研究成果が活用されることになった。
エンディング映像。
「ガイアの夜明け」の次回予告が流れた。
「ワールドビジネスサテライト」の番組宣伝。”関税訴訟”日本への影響は?