- 出演者
- 長谷川博己
オープニング映像。
9月東京国際フォーラムで開かれていたのは、全国から約700の自治体が参加した移住相談会。近年のブームもあり、来場者は2日間で約3万人。人口減少に悩む地方、それを少しでも食い止める手段が“移住者の獲得”。人気移住先の1つ「静岡市」は、補助金最大1000万円を大きくアピールしていた。「遊びが暮らし。」キャッチーなライフスタイルを掲げるのは、長野県信濃町。そんな会場にいたのが、お隣群馬県の山本一太知事。敵情視察に訪れていた。群馬県は、最新の移住希望地ランキングで1位に輝いていた。
4年連続王者だった静岡県、近隣の栃木県・長野県を抑えての悲願達成だった。2024年度の群馬県への移住者は1560人と過去最高を記録、ブースには多くの人が押し寄せていた。群馬県は、東京と近いが日本一“物価が安い”のが大きな売り。また、単なる移住者の獲得競争とは一線を画し、「店舗開業」や「企業」支援を打ち出しているのが桐生市。2022年には全国住み続けたい街ランキングで3位にもなっている。その街が1年で最も熱気に包まれる「桐生八木節まつり」。
群馬県の東部に位置する桐生市。人口約10万人、東京から特急列車なら約1時間40分。駅で待っていたのは市役所の馬場秀穂さん。やってきたのは、移住希望者たち。市が主催する見学ツアーで、街を直接見て貰おうという。多い時には20人以上がやってくる。街の中心部にある本町通り、この日ツアー参加者がまず案内されたのは先輩移住者が営むデニム工房。店主の森山竜乃介さんは岡山でデニム縫製の修行後、去年工房をオープンさせた。織物工場の名残を残すのこぎり屋根の建物、かつては“西の西陣 東の桐生”と謳われ古くから続く織物の産地。今も地場産業として根付き、多くの職人が繊維の仕事に携わっている。そうした街の歴史や環境に惹かれ、移り住む人もすくなくない。比較的新しいアパレルの店が多いのも桐生の特徴。続いて、ツアー参加者が案内されたのは桐生で唯一のベーグル専門店。この店を営んでいるのがさいたま市から2023年に移住してきた、戸草内さん一家。親子3人で引っ越してきた。脱サラして職人になった戸草内さん、1日に作れるベーグルは200個ほど。休日には昼すぎに完売してしまう人気ぶり。以前は雑貨店だった空き店舗を改装し、自己資金300万円で店を始めた。中心市街地の16%が空き店舗となっており、桐生市では空き物件を活用した店舗開業を最大140万円補助している。昭和40年頃の本町通りは、専門店が軒を連ねる一大商店街だった。街を見下ろす小高い丘には、桐生市民が愛する昭和そのままの姿を残す遊園地があった。
移住者を支援する独自の取り組みがある。不動産会社で店舗を借りる契約が交わされようとしていた。東京から移住しお好み焼店を開くのが夢だと言う男性。その相談に乗り、この話しを進めてきたのが、不動産会社の副社長である川口雅子さん。川口さんは、桐生市が指定する移住コーディネーターの1人。市が開設した、移住者獲得のための相談窓口「むすびすむ桐生」の最前線で活動している。築60年の古民家を改装したカフェ、そのキッチンに川口さんの姿が。10年ほど前にこのカフェをオープン、不動産業との二足のわらじを履いている。県外からやってくるファンも多い。このカフェで週末の夜に開かれていたのは、移住者と地元住民の交流会。月に一度川口さんが主催している。ベーグル専門店の夫婦も参加していた。川口さんは、こうした機会を作ることで移住者と地元住民の間を取り持ち、新たなビジネスへと結びつける手助けをしている。
築89年の二軒長屋、かつては織物工場で働く女性たちの住まいだった。そこへ3月中旬、年齢はバラバラの人たちがやってきた。移住希望者や地元の人たちなど約30人ほどが集まった。用意されていたのは、マスクや手袋・ヘルメットまで。始まったのは本格的な解体作業。古民家を改修して店舗を開きたいと考えている人に向けたイベントで、発案者は川口さん。参加者の1人に3年前に埼玉から移住してきた大谷さんがいた。彼女にこのイベントへの参加を進めたのも川口さんだった。みんなで解体した家、この時借り手はまだ決まっていなかった 。
4か月後、川口さんの不動産会社に解体イベントに参加していた大谷さんの姿があった。自ら壊したあの物件が気に入りこの日賃貸契約を結ぶ運びになっていた。家賃は1か月約10万円、川口さんが大家さんと交渉してくれた。その後、大谷さんの店の改装が進んでいった。
群馬県桐生市、8月下旬古い長屋を改装した店がオープンの日を迎えていた。移住者の支援を行う川口さんが開業を祝うために駆けつけた。古い柱はそのままに、築89年の長屋はオシャレな店に生まれ変わっていた。並んでいる服は全て古着。川口さんに相談したことで、念願だった店を持つことが出来た大谷さん。自己資金は約200万円。オープン初日から多くのお客さんが訪れていた。大谷さんは2年前からネットで古着販売を始め実績を積んでいた。実店舗を持つにあたり拘ったキッズスペース、子を持つ母である大谷さんの夢だった。今回、桐生市の空き店舗補助金50万円を活用できたのも大きな後押しになった。
桐生市の中でも伝統的な建物が立ち並ぶエリア、重要伝統的建造物群保存地区。その一角にあるのが、街の歴史を物語る古い銭湯。「一の湯」切り盛りしているのが、女将の山本真央さん。3年前埼玉から移住してきた。110年程前、女性行員たちが入っていたという銭湯。長年地域の交流の場としても親しまれてきた。しかし2018年、後継者不在のため惜しまれつつ廃業していた。なぜ、一度歴史の幕を閉じていた「一の湯」を山本さんは復活させたのか。女手一つで2人の子どもを育てていた山本さん、趣味のツーリングで見つけた「一の湯」の佇まいに一目惚れした。復活させてみせると、移住はしてきたものの容易いことではなかった。営業許可の取得に始まり、老朽化した設備の改修など問題は山積み。何度も挫けそうになったという。貴重な燃料の1つは近くの山林で手に入れている、山本さんの視線の先にはチェーンソーを振るう男性の姿があった。今氏一路さん、彼も移住者の1人。自己資金がほぼゼロだった山本さんを手助けしたのが、今氏さんだった。銭湯復活に向け、今氏さんはクラウドファンディングを立ち上げた。そして400万円を集め復活の道筋をつけた。さらにその道のりをYoutubeで配信するなど、山本さんの熱い思いを訴えてきた。そして今では、レトロな佇まいを訪ね地元だけではなく県外からもファンがやってくる人気の銭湯として復活を果たした。この日も、一番風呂に入ろうを待ち構えていた人たちがいた。
夜のJR桐生駅の近くに、ネオンが輝く店があった。店先には薪が積んである。今氏さんが自分で切り出した薪をここへ運んでいた、さらにその薪を順次店内へと運び込む。今氏さんは1年前サウナを開業、桐生の薪を売りにしている。この本格的なサウナは、若者たちを中心に駅前の人気スポットになっていた。本格的な深い水風呂もある。今氏さんには別の顔があり、商店街の一角に今氏さんの経営するIT系の会社「CICAC」がある。廃業していた子供服の店舗を改装し、4年前にオフィスを開設した。コンピューターの前の姿が今氏さんの本業。埼玉で育った今氏さんは、高校卒業後アメリカに留学しデザインを学んだ。帰国後、IT大手サイバーエージェントを経て8年前に独立。渋谷にオフィスを構え、企業のシステム開発を手がけていた。少数精鋭で年商は5000万円ほどだった。会社のスタッフの1人が桐生出身という縁から、初めてこの地を訪れた。今氏さんが桐生に来てから取り組んでいるのが、地元タクシー会社と組んだ地域課題の解消。午後2時、その配車センターを覗いてみると依頼を断るというまさかの事態が起きていた。コロナでタクシーの需要が激減し、ドライバーの離職が進み今の深刻なタクシー不足の原因に繋がった。駅前でさえ昼だけでなく夜もタクシーがいない。その解消のために、今氏さんが開発に取り組んでいたのが「日本版ライドシェア」。今氏さんは、桐生周辺で便利に使える配車アプリを独自に開発し、去年11月実用化にこぎつけた。地元も大いに期待を寄せている。群馬県では桐生市が初めての導入となった。早速今氏さんも動き出し、向かったのは市内のビジネスホテル。ターゲットは桐生に観光やビジネスで来た人たち。多くの人に利用して貰おうと、自ら市内の店を回って広める。
午後6時、配車の電話が多い時間帯。ライドシェアのドライバーが初めて出勤してきた、二種免許は持っていない。初日は今氏さんも車に乗り込み、様子を確認させてもらう。街の中心部へ、ライドシェアのドライバーに応募してきたのは普段は運送関係の仕事をしているという男性。すると、配車依頼が入った。相手の場所を確認し、利用者第1号は若い女性だった。行き先は友人が待つ飲食店。走行距離は約3km、料金は1610円。タクシーとほぼ同額。ライドシェア初日、利用者は7人。若い人を中心に好調な滑り出し。半年で桐生市のライドシェアの利用者は2000人を超えた。しかし、開発したアプリに想定外の事態が起きる。
東京の渋谷から群馬県桐生市に移住してきた、IT企業の今氏さん。今取り組んでいるのは地域の大問題、移動手段の確保。集まっていたのは近くに住む高齢の人たち、約20人。移住コーディネーターの川口さんが、今氏さんのために声をかけて集めてくれたという。開発した配車アプリのメリットを訴える、その理由は桐生市周辺の高齢者は免許保有者が約7割に上るということ。開発した配車アプリを一から手ほどきしながら試してもらうが、中々上手くいかない様子。スマホの利用も電話がメインの年配者にとって、文字入力は一苦労。中には機種が古いためアプリの機能が思うように動かない人もいた。
移住してきた人と、それを世話した人。桐生という街が出合わせてくれた人たち。高齢者の声を聞いてから2か月、今氏さんは少しでも使い勝手の良いアプリにしようと改良に取り組んでいた。この日、前回参加してもらった人たちに今度は改良したアプリを試してもらう。今回新たに加えた「らくらく配車」機能。ボタンや文字を大きくして、操作を簡単にしたことで入力の手間が大幅に減る。地域密着の使いやすい配車アプリに各地から視察が訪れるようになった。そして今氏さんに大きなチャンスを運んできたのは、ラグビーシャツの運転手。
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- 安平町役場
東大阪市、ラグビーの聖地・花園があることで知られる街。その庁舎に緊張した面持ちの今氏さんの姿があった。今氏さんが開発したシステムが、人口48万人の東大阪市で採用されたのだった。ユーザー目線の使いやすさが決め手となった。
エンディング映像。
「ガイアの夜明け」の次回予告。