- 出演者
- 長谷川博己
オープニング映像が流れた。
11月下旬、東京・中野区にあるとおやま薬局。都内などに6店舗を展開する調剤薬局である。経営者の遠山伊吹さんは自らも薬剤師である。今年のインフルエンザは過去10年で最も早く感染が拡大している。インフルエンザに処方される薬の中にはすでに欠品も出始めていた。今薬局や医療機関で出される約9割がジェネリックと呼ばれる後発医薬品である。値段は先発薬の約半額と安いが、製薬会社が出荷を調整していて手に入りにくくなっている。長引く咳などに処方されるモンテルカストという薬も残りわずかになっていた。ここ数年、ジェネリックが全般的に仕入れにくくなっているのである。
こうした薬不足が問題になる中、大手のジェネリックメーカー・沢井製薬では問題解決に向け新たに製品戦略部を立ち上げていた。この部署を取りまとめるのが黒田正城さんである。大手ならではの大規模な増産計画が動き出していた。一方、Meiji Seika ファルマでは中小メーカーの力を結集する安定供給の枠組みを目指していた。薬不足を発端に再編に向け動き出そうとしているジェネリック業界。その挑戦を追った。
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長谷川博己は「欠品の場合に出てくるのが代替品だが成分が変わる場合、医師の確認・判断が必要となる」などと話した。
大阪に本社を構える沢井製薬。その歴史はおよそ100年前、創業者夫婦が営む小さな薬局から始まった。戦後の経済成長真っ只中のジェネリックが世に出始めたタイミングで医療用医薬品へとシフト。その後、国がジェネリックの新興を押し進めるとその流れに乗った。今や従業員数約3300人で売上高1890億円とジェネリックの販売シェアでは国内No.1を誇る。今回、社内のある場所を特別に見せてもらうことができた。いくつもの扉の先には約800品目で年間166億錠を製造する沢井製薬の心臓部があった。最初に作られた薬は特許が最低20年間は守られ、その間は独占的に販売できる。一方、特許が切れたあと他のメーカーが作るのがジェネリックである。開発費が省け値段を抑えられ国も医療費削減のために普及を進め、使用率は薬のおよそ9割にも及ぶ。例えば第一三共が開発したロキソニンは鎮痛剤として有名だが、1997年に特許が切れたあと沢井製薬をはじめ19社からジェネリックが発売された。しかし後発薬だからといって簡単に作れるわけではないという。公開される情報は有効成分の量や添加剤の名前くらい。そこで後発各社は競争を勝ち抜くため即時の技術を駆使することになる。少ない水で薬が早く溶ける沢井の独自技術は水分を制限されている患者や飲み込む力が弱い高齢者に優しい工夫である。ジェナリックが不足する中、沢井では特別チームを立ち上げていた。その製品戦略部を取りまとめるのが黒田正城さんである。15年前に外資系医療機器会社から転職してきた黒田さんはマーケティングや営業で戦略の立案を手掛けた手腕が買われ、今回このプロジェクトに抜てきされた。
発端は5年前のある事件に遡る。ジェネリック大手・小林化工で水虫治療薬に睡眠導入剤が混入し、約250人が健康被害を訴えて2人が亡くなった。その後も国の承認を得ていない製造方法やデータの改ざんといった不祥事が発覚して行政処分が相次ぎ製造が停滞した。今でもジェネリックの約2割が供給不足に陥っている。かつて炭鉱の町として知られた福岡・飯塚市に黒田さんの姿があった。去年から稼働を始めた第二九州工場の新棟は沢井製薬の工場の中でも最大規模を誇る。370億円以上を投資して作られた最先端の製薬工場で黒田さんはさらなる増産ができないか依頼に来ていた。できてから日が浅い新工場は工場長の話では急な増産には人手が追いつかないという。舞台は九州から北陸となり、やって来たのは福井県のあわら温泉。沢井は増産に向け、以外な一手を打っていた。この町には全国に8つある沢井の工場の1つがある。グループ会社であるトラストファーマテックの工場で年間30億錠の生産能力がある。案内してくれたのは工場長の柳敏宏さん。増産に向けて準備中の第三工場となっていた。事件後、小林化工が事業を撤退すると従業員400人と製造設備を沢井が引き受けていた。新会社・トラストファーマテックとして生まれ変わっていたのである。案内してくれている工場長の柳さんは沢井製薬から出向し新会社の立ち上げから見守ってきた。薬不足の原因となる品質問題が起きた工場で問題を解決するという大胆なアイデア。
国内の製薬会社は約330社でそのうちジェネリックが約180社を占める。大手は数社でそれ以外は多くの中小メーカーによって成り立っている。石川県に工場を構える辰巳化学の売上高は116億円でジェネリック業界では中堅企業の1つである。工場長の中岡健司さんはこの仕事に携わって30年以上の大ベテランである。その中岡さんの案内で製造エリアへ。取り扱う薬の品目は大手の沢井が800なのに対し、辰巳は300である。製造ラインの稼働状況を表すランプが青から赤へと変わった。従業員が手にしているのは薬の名前が書かれた紙でこれまで作っていた睡眠導入剤から利尿剤へと変わった。ジェネリックの工場では1つの製造ラインで様々な種類の薬を作っている。辰巳の場合は製造ラインは全部で9つであり、300もの薬を製造するために1つのラインで何種類も作っている。そのたびに形替えと呼ばれる部品交換が必要となりこの作業の間は製造ラインはストップして薬を作ることはできない。さらに部品交換のあとは残留物がないか時間をかけ隅々までチェックしていく。形替えに取り掛かってから3時間半、ようやく製造再開かと思いきやできあがった製品を回収していく。そして抜き取ったものを5人がかりでくまなくチェックし始めた。次の薬の製造が始まったのは4時間後。これが1つのラインで1日2回ある時も。こうして様々な薬を少しずつ製造することを少量他品目生産という。この効率の悪さが薬を増産できない大きな壁となっていた。しかし少量他品目生産にならざるを得ない理由があり薬価という薬の価格である。この薬価は国が決めジェネリックの場合は先発薬のおよそ半額から始まり、基本的には下がる仕組みで5年間は同じ薬を作り続けなければならない。そこで利益率が高い新製品に次々と手を広げるのである。取材中、案内してくれていた担当者に緊急連絡が入り、それは大きな損失につながりかねないトラブルであった。
長谷川博己は「今の薬不足は薬を安定的に供給するためいくつものメーカーが薬を作っているが、それぞれの製造ライン・品質・管理まで様々なパーツで成り立ち積み上げていくパズルのようである」なとと話した。
石川・白山市に工場があるジェネリックメーカーの辰巳化学。取材中にトラブルが発生し、担当者が急ぐ。手にしたのは検品の際に不良品として弾かれた錠剤を取り出したルーペで確認すると充填している最中に錠剤に汚れがあったとのこと。汚れの原因次第ではすでに製造した薬の全てを廃棄する必要があるという。顕微鏡で拡大すると肉眼ではわからなかった茶色い部分がはっきりと確認できる。他の錠剤の品質には問題がないようであった。この日東京駅に降り立ったのは石川県からやって来た工場長の中岡さんである。珍しくスーツ姿で向かったのは駅前にある貸会議室。辰巳化学が年に1度、薬の販売会社を招いて開催する説明会である。辰巳化学にとっては取り引きを継続・拡大してもらうための大事な会議であった。インフルエンザが流行する今、特に注文の多い薬の製造が滞っていたのでそのことを謝罪した。どうすれば安定供給ができるのかずっと悩んでいた。
そんな辰巳化学に1台のタクシーが。これが変革への大きな流れの始まりであった。客の到着を辰巳の首脳陣が待っていた。やって来たのはMeiji Seika ファルマジェネリック事業戦略部の小林郁夫部長である。菓子メーカーの大手・明治は戦後、ペニシリン製造を機に医薬品事業にも参入した。その後Meiji Seika ファルマとなり、今や売上高はおよそ1400億円。先発薬やワクチンを手掛け、ジェネリックの分野でも売上トップ10に入る製薬会社である。明治の小林さんは安定供給に悩む辰巳化学にある提案を持ちかけていた。会議には中岡さんはもとより、社長の黒崎隆博さんも同席していた。ジェネリック業界特有の事情である少量他品目生産はそれぞれのメーカーが同じ成分の薬を作っている。そこで複数の会社が手がける同一成分の薬を1つの工場に集約して製造しようという提案であった。これにより時間がかかっていた製造ラインの部品交換が減り効率化が期待できる。明治からの提案を受けて辰巳はこの提案を前向きに検討することとなった。こうした動きは実は国が主導したもので積極的に動いていたのは当時の武見敬三厚労大臣である。去年7月、厚労省に集められていたのは主要ジェネリックメーカー13社の代表で武見大臣は業界に再編を促した。1年後の今年7月、Meiji Seika ファルマが記者会見で発表したのは新・コンソーシアム構想。コンソーシアムとは共同体という意味であり、中小のメーカーが連携して製造拠点を集約し安定供給を目指すというもの。この構想をけん引するのがMeiji Seika ファルマの小林会長である。会長は社内のプロジェクト会議にも欠かさず出席し、檄を飛ばす。その会長の意を受け、小林部長は動いていた。薬剤師の資格を持つ小林さんは10年に渡りジェネリックの開発にも携わっていた。去年、プロジェクトの立ち上げとともにジェネリック事業戦略部の部長に抜てきされた。しかしジェネリックメーカー同士の協業の難しさに頭を抱えていた。見せてくれたのはこれまで交渉してきたジェネリックメーカーのリストである。これまでおよそ30社に声をかけたが交渉は難航していた。
苦戦しながらも粘り強く交渉を続けてきた小林さん。ようやく賛同してくれる会社が現れ、富山市に本社を置くジェネリックメーカー・ダイトである。今後の品目統合に向けて小林さんは製造現場を自ら確かめる。8月上旬、明治とダイトの声がけにより新・コンソーシアム構想への参加企業は6社にまで増えていた。この日は明治とダイトの2社で参加企業の品目をどう割り振るか話し合う。早速ある薬について小林さんからダイトの沖野真二さんに提案があった。また別の薬ではある会社に製造を打診したところ、どの薬を引き受けるかが利益に直結するためなかなか話がまとまらなかった。そんな中、あの辰巳化学が覚悟を決めていた。
金沢駅に降り立ったのは仲間を募っていたMeiji Seika ファルマの小林さん。向かったのは辰巳化学でコンソーシアムへの参画を決めていた。この日は辰巳の工場長・中岡さんも参加して重要な会議が開かれた。話し合われたのはレバミピドという胃の薬の製造統合についてである。それぞれが作っていた同じ成分のレバミピドを辰巳化学1社に集約することが決まった。できあがった製品は明治でも販売する。その後辰巳の社員が明治の生産部門のスタッフを製造現場へ案内する。これまでライバルだった2社が1つの薬で手を組んだのである。今回の統合で辰巳はレバミピドをこれまでの3倍作ることとなる。その分、自社で製造していた別の薬を他社に作ってもらうことも決まり来年6月からの増産を目指すことに決まった。動き出した明治の新・コンソーシアム構想の参加企業は7社に増え、22の薬で統合に向けた協議が始まった。こうして再編への道を歩みだしたジェネリック業界に国はどう考えているのか。
ジェネリック業界の再編を国も後押ししていく方針である。厚生労働省にその真意を尋ねると「後発医薬品産業は、未だ安定供給等の課題を抱えていることから、その振興に当たっては、安定供給の確保を基本とした上で進めて行く必要があると考えています」などとのことだった。
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長谷川博己は「安定感は安心につながる。それぞれが支え合いお互いを補うこと。やはりバランスが大切ですね」と話した。
「ガイアの夜明け」の次回予告をした。
「ワールドビジネスサテライト」の番組宣伝をした。「日銀0.75%へ利上げ」など。
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