- 出演者
- 曽我英弘 上原光紀
必要なところに医師が足りない“医師の偏在”が課題となっている。また病院の経営も課題となっており、全国で6割以上の病院が赤字に陥っている状況。日本の医療現場が直面する様々な課題について考える。
地域による“医師の偏在”について。地域の医師不足が深刻化している。島根県・済生会江津総合病院では常勤医は半数以下の12人に減少。18ある診療科の維持が難しい状況となっている。医師の数の推移は増加しているが、都道府県別で見ると都市部では高いが地方部では低くなっている。最も高い東京と最も低い岩手では2倍近くの差がある。秋田の小野医師は20間の主な仕事は医師の確保だったと語る。また病院長である小野氏自ら当直などを行っているという。太田圭洋氏によると、同じ愛知県でも名古屋とその他の地域では大きな差がある。中村秀一氏によると医師の自由に開業できることが古くからの要因だったと指摘。また西高東低の傾向は医学部の数が西に集中していたことが大きい。伊藤由希子氏は、専門的な医療より総合的な医療が求められているのにも関わらず、同時に医療の発達と共に専門的な医療へのニーズも高まっている。2つの分野は分けて配置するべきと指摘した。
医師の偏在を解消するにはどうすればいいのか。政府の対策のひとつが地域枠の拡大。医療法等改正案を今国会で審議。「重点的に医師を確保すべき区域」は、診療所を新たに開く際の支援、医師への手当の増額をするなどが盛り込まれている。伊藤さんは、地域枠で9年間若手の医師が働くことは成功をおさめていたという。しかし所詮は対症療法だった。対面でないといけないという限り、どんな地域でも医師がいないといけないということになる。リモート診療や、オンラインの相談ができる環境での医療のツールを利用することが必要となる。日本医療法人教会の太田さんは、今回は踏み込んで医師の偏在対策を作り上げたという。地域枠の医師は増え続けている。人口が減少していく社会で、いままで通り医療が受けられる状態は難しくなる。遠隔診療などの工夫が必要となるだろう。国民の理解も必要となる。日本地域医療学会の小野さんは、国が提示さいたパッケージは有効だという評価が多数あったとのこと。単なる数の確保だけでなく、質、継続性、適合性などの支援対策が必要になるという。ささえあい医療人権センターCOMLの山口さんは、地域枠は以前から有効だと言われているという。医療法の改正は、実際にはじめてみないとわからないとのこと。偏在対策は、これまでは定員を決めていた。若い人たちで解決するのは限界がある。中堅の医師も一定期間行くことになることは、前進だとのこと。元厚生労働省の審議官の中村さんは、偏在対策は重要な課題だという。法案の方向性は評価できるという。医療は、医療専門職のみなさんが、医療のために頑張ることが本質だという。医師の不足に対応するために、政府では、病院の宿直態勢の見直しについても議論しているという。現在は病院ごとに医師の宿直を義務づけている。検討されているのは複数の病院の対応、遠隔・兼務などだ。医療安全の点からはリスクが大きいために時期尚早だという小野さん。暫定的に態勢をとることはやむを得ないこともある。中村さんはオンライン診療は発達しているし、電子カルテも共有できるようになるという。集中治療室に対して、大きな病院から支援を受けることも診療報酬の点からも認められている。宿直の規制緩和については数日前にでてきた話しだと太田さんがいう。まだ慎重な議論が必要になる。夜間の宿直は大学の医師のアルバイトでしのいでいるので、生活ができなくなってしまうため、大学に人がいなくなってしまう可能性がある。全体としては、ひとつの考えだけで、偏在を解決できることではない。すべてを組み合わせて解決すべきだという。慶應義塾大学の伊藤さんは、宿直の偏りを確認する必要があるという。実験的にやってみることは価値があると思うとのこと。
診療科ごとの偏在という問題もある。診療科ごとの医師の偏在を指数で表した。2002年を1として、2022年には美容外科は4を超えている。内科や産婦人科はほぼ横ばい。消化器・一般外科は減少している。美容外科は「直美」が増えている。医師が初期の研修後に専門の研修を受けずに、直接、美容クリニックに就職する若手医師のことだ。日本医療法人協会の太田さんは、若い医師の考え方の変化だという。地域の命に関わる医療に携わりたいと考えて医療に携わってきたという。いま、コスパ、タイパという考え方になってきて、自分の生活に求めるものがドライになってきている。その中で一般の医療に携わると経済的ねメリットが感じられなくなっている。何らかの対策をしなくてはいけない。慶應義塾大学の伊藤さんは、直美は、一種のサボタージュだ。これからさき、医療需要が減少する。地域では働く場所が無くなっていく。将来性は見いだせない。若者のスタイルに終始せず、医療の課題を見直さなければならない。元厚生労働省の審議官の中村さんは医療費が伸びることは世間的に問題視されるという。診療報酬は抑制的になっている。直美は、保険外診療であり、マーケットで価格が決まるという。高額を患者に請求できる。保険診療の問題点が露呈している。保険診療は税金と保険料でやっているので、苦しい状況だ。直美を禁止することはできない。保険診療を考えるべきだ。危険信号が出ている。山口さんは診療科による遍在は大きな問題だという。一般的な外科のドクターが減っているということを国民の多くは知らない。消化器外科がなくなることは地域にとっては大きな問題となる。里帰り出産しようと思ったけれども、お産ができるところがないという状況もある。この状況を国民に知らせたほうがいい。海外では、成績優秀な学生だけが、診療科を選択できる制度になっている。中村さんは、診療科ごとに、報酬を均一にする考えが強かったという。ほうっておいても多くの医師が必要な診療科は心配ないが、増えない診療科については、報酬を手厚くすることも考えた方がいい。小野さんは、地域によっては診療科の偏りがあるという。秋田県などは、出産を受け入れられない病院も出てきたという。外科の医師はとても少ない。集約化をすべきだろう。そこに若い医師が来て経験する。その医師に支援をする仕組みを作ったほうがいい。患者にとってはアクセスが不便になるが、移動のアクセス整備をすべきだという。
病院経営について。全国の病院がつくる6団体を調査した結果、去年経常利益が赤字となった病院は全体の61.2%に上り、一昨年から10.4ポイント増えた。赤字の要因として新型コロナ関連の補助金の終了などが挙げられるが、この調査では「物価・人件費などの上昇に診療報酬などの収入が追いついていない」と指摘している。昨年度の診療報酬改定では、医療従事者の人件費などに充てられる本体部分は0.88%引き上げられた。
太田さんは「元々経営が厳しいところに物価高が拍車をかけた。物価が上がっているので本来なら医療従事者の処遇改善を十分にすべきだがそれができておらず、結果人の流出につながっている」などと話した。小野さんは「病院の努力だけでは追いつかない状況になっているので支援が必要」などと話した。山口さんは「高齢化が進む中で医療費を抑制していては病院はもたない。また医薬品等の購入にかかる消費税を病院が負担していることも考えるべき」などと話した。伊藤さんは「診療報酬改定だけでは人口減少の波に抗えない。またコロナ禍での補助金で病院経営改善の問題が先送りされ、それが今になって出てきた」などと話した。中村さんは「政府は賃上げをうたっている以上、医療・介護従事者の賃上げをすべき。ただ現状対策として診療報酬の見直ししかない」などと話した。他の参加者からは対策について「人口減少に伴う医療設備等の集約化」や「医療の重点分野に集中して投資する」などの意見が出された。
去年12月に厚生労働省が策定した新たな「地域医療構想」の方針。地域医療の将来像を示すもので、これまでは入院医療を中心に各地域の病床数が焦点になっていた。今回の構想では医療機関と介護施設の連携を強めていく必要があるとしている。また、医療機関ごとの地域での役割分担を整理し、それぞれの機能を強化したい考え。山口氏は「一般患者・市民に理解されていないのが医療機能の分科。医療の問題は地域格差が大きい。自分たちの住んでいる地域がどういう状況になっているのか、どんな機能を持っている医療機関があるのか、国民にわかりやすく知らせた上で、来年度からかかりつけ医機能の公表が始まるので、どういった医療機関があるのかというのを患者側もしっかり見ていくことが大事」、太田氏は「これから様々な議論が行われていくが、どういう機能を集約化して、どういうものは地域で分散して支えていくのか、というのも考えていく必要があるだろう。それに伴い地域の方々の医療への関わり方も今まで通りではなくなる」、中村氏は「過疎地などでは医師がいないところがある。そういったところには応援拠点を作り巡回診療や医師の派遣が必要になる。システム作りは都道府県の仕事ではないかと思う。都道府県が果たす役割は大きい」等と話した。
日本の医療に今何が必要か聞いていく。山口氏は、患者も行動変容が求められる時代になってきているので、国民をしっかり議論に巻き込んで一人ひとりが考えられるようにそういう情報提供も必要などと述べた。小野氏は、医療の細分化が進む中で、今後は都市部でも地方でも必要なのは総合診療医の育成と、地域で活躍することだと考えている。場合によっては領域別の専門医と連携を取り、患者に寄り添えるような総合診療医が増えることが地域住民の皆様の安心につながるなどと述べた。伊藤氏は、現場の危機感をできる限り地域の全体最適に変えていく人の努力が一番大事などと述べた。太田氏は、最終的に国民の方々の負担に跳ね返ってくる話になるので、今医療がどういう状況になっているのかをしっかり国民や地域の方に認識してもらい、その中でどこまで負担していくのか、どこまで医療の受け方が変わるかを許容するのかを考えてもらわないといけない時期になっているとし、医療の今後に対し国民的な議論を進めてもらい適切な改革につなげてもらえたらなどと述べた。中村氏は、いろんなことをしなければならない、それにはお金がかかり、保険料や税金という形でお金を出している。医療費と並ぶ賃上げがあれば社会保険料をあげなくてすむので、自分が医療費の出資者だという意識で医療界をサポートするという意識が必要などと述べた。医師を目指す学生に小野氏は、医療の現場が魅力的でやりがいがあると伝えて、是非こちら側に飛び込んで来てほしいなどと述べた。医療を巡る問題について、NHKスペシャル・クローズアップ現代などでも取り上げる。