- 出演者
- 曽我英弘 上原光紀
世界経済を揺るがすトランプ関税、IMFはことしの世界経済成長率を0.5ポイント下方修正し、今後の見通しに対する懸念が広がっている。日本経済の先行きも不透明感が増している。トヨタ自動車は今年度の業績見通しを発表、為替の変動や関税政策の影響で最終利益34%余の減少を見込んでいる。今後の世界経済、日本の戦略について専門家が徹底分析する。
IMFは先月ことしの経済成長率の見通しを公表、世界経済全体は2.8%で貿易摩擦の激化などを背景に1月の予測から0.5ポイント引き下げた。国別は下げ幅が大きかったのはアメリカ、0.9下方修正され1.8%、日本は0.5下方修正の0.6%、中国も下方修正され4.0%にとどまる予測。今年1-3月までのアメリカGDP伸び率は前の3か月比で年率換算ー0.3%で12期ぶりのマイナスでトランプ政権の関税措置による影響が反映された形。元日銀副総裁の岩田さんは「高関税政策は貿易保護主義、蔓延すると1930年代世界全体が不況に陥ることがあった。今回のトランプの政策はスムート・ホーレー法の再来という人もいる。インパクトは基本的にスタグフレーションで失業率とインフレ率は上がるが成長率下がる。アメリカでは供給が減る供給ショックといってもいい」「日本では輸出が減り需要が減るインパクトが強くなる。日米共通ではこういう関税でグローバルサプライチェーンの再編成が起こる。日本銀行は物価の上昇率見通しも成長率も下げる影響があった」などとした。ピクテ・ジャパン大槻さんは「ある程度関税についての影響は市場からみると折り込みつつあるが今回申告な打撃として国民・市場に対しトランプ政権が予見不可能だと改めて見せてしまったこと。アメリカ国債はリーマン・ショック後最悪の水準など市場や個人のマインドが冷え込んでしまっている」などとした。
アメリカの金融政策について。7日FRBが会合で利下げを見送った。政策金利の据え置きは3会合連続となる。パウエル議長は“先手を打てる状況ではない”とも発言している。今後は雇用と物価の安定のどちらを重視するのかが焦点となる。トランプ大統領はFRBに利下げを要求しているが、大統領による議長罷免などにつながる法的な争いになる可能性もある。トランプ大統領による米関税政策の狙いは製造業を取り戻して支持層の生活を再建することだが、時間がかかり落とし所を探しているような状況と説明された。
トランプ関税は一律での10%に加え、品目別の関税として自動車その部品、や鉄鋼・アルミニウムなどで25%、相互関税として日本には24%が課せられていたがこちらは4月9日から90日間に渡り停止されている。この関税の影響でトヨタ自動車は最終利益は34%あまり減少するとしている。コマツは営業利益が943億円減、三菱電機は300億円ほど減少すると観ている。小林氏は生産も投資も抑えられるのではないか、日本としてはアメリカに対して国際秩序のあり方を提言する必要があるのではないか、既存の国際秩序を引き継ぐ提案をしなければならないが、ヨーロッパとアメリカ間の不信感が今後の障害となることが懸念されるという。斎藤氏はこれまでより円高が進み減益となる企業は増えると見られるが、収益のウェイトが重いのは非製造業であり国内需要が支える中でどれだけ踏ん張れるかが重要としている。大槻氏は製造業はアメリカなど海外に拠点を移すことで対応しようとする動きがあるものの、中小企業の場合拠点を移転する事も難しく影響が懸念されるが、中国からやすい輸入品が流れることによるさらなる影響も懸念されるとしている。中空氏は不透明性の中では国が対応しなければならない、基本的にはできるだけ早く収束する必要があり、中小企業に影響が出る前に動くのが国に求められると言及。
トランプ関税を巡りイギリスは合意している。イギリスで生産された自動車は年10万台まで関税を10%に引き下げ、イギリスに対しての一律関税は維持されるというものとなっている。岩田氏はWTOも25年度の世界貿易の伸びは0.2%減で2年ぶりのマイナスと推測していて、関税発表前の3%から大きく下落したと紹介し、日本でも賃金交渉などに影響が出ることが懸念されるとしている。2025年3月の実質賃金指数も-2.1%となっていて、厳しい状況が予想されると言及。小林氏は米英の合意は10%の関税を残すものであり、輸入車への措置はあるものの日本の立場からは相当違う物となってしまっていると言及し、悪影響はこれからも続くことが懸念されるとしている。大槻氏は農業分野の輸入簡素化などをアメリカが主張する中で世界基準と離れた規制を緩和することも自由度を高める側面があるのではないかと言及。中空さんは10%ぐらいのところで止まりうるという可能性は出ているが、日本とは輸入の状況が違うのは現状と言及し、日本もデジタル赤字が課題となる中で交渉材料にすべきと言及。
連合が先週公開した今年の春闘の集計結果によると、定期昇給分とベースアップ相当分を合わせた平均の賃上げ率は5.32%。2年連続5%超の高い水準を維持している。賃金が上昇すると経済にどのような効果があるのか。政府・日銀は経済の好循環が生まれることを目指している。賃金が上がることで購買力が高まる。それにより適度に物価が上がれば企業の利益が増え、再び賃金の上昇につながるというサイクルが実現するとしている。斎藤氏「物価上昇率が落ち着いてくれば実質賃金のマイナスがプラスに転じていく流れは途切れていないと考えている」、小林氏は「金融政策や財政政策のようなマクロ政策では賃金と物価の好循環は実現できない。基本的には経済の構造を変えていくことが必要」、岩田氏は「AIを中心に半導体データ、AIロボット、ソフトウェア・デファインド・ビークル等で新たな産業分を作り上げていくことが必要。更に労働市場の改革を通じて正規と非正規の間の格差を抜本的に改革することが必要」等と話した。物価と賃金の動向に密接に関わるのが日銀の金融政策。植田総裁は追加の利上げについて”先行きの見通しが変わる可能性がある”として”適切な時期を示すのは難しい”という認識を示した。岩田氏は「物価の上昇と景気が悪くなる、どちらを選択するか迫られているわけだが、差し当たりは中立的にしておけばいい。注意すべきだと思うのは米国が景気後退になった場合に日本は無傷でいられるか。日本はすでにゼロ金利やマイナス金利も含めて経験を積んでいるので、そこを固く考える必要はないと思う」等と話した。
大槻さんは「脱グローバル化は避けられない。中長期を見据えた中小企業の構造改革と生成AI等の研究促進が重要」などと話した。斎藤さんは「可処分所得を増やさないと個人消費が伸びない。賃上げに加えて恒久的な減税、特に税率構造の見直しが必要」などと話した。中空さんは「日本製品の良さを見つけてもらい買ってもらうチャンスだと思う。そのための支援策を講じていくべき」などと話した。小林さんは「アメリカが自由貿易のリーダーから降りたがっている中で日本は自由貿易体制の維持に努めていく必要がある。経済的自由を縛ることは結果として全ての自由を制限することになると訴え続ける必要がある」などと話した。岩田さんは「アメリカ以外の国々と連携して自由貿易をむしろ強化していくべき」などと話した。