- 出演者
- 鈴木奈穂子 武田真一 河江肖剰 高崎史彦 森島邦博
エジプトの大ピラミッドは古代史最大のミステリーとも呼ばれている。いったいなぜ、どうやって作り上げたのか今も分かっていない。中でもクフ王のミイラや副葬品は見つかっていない。その謎に迫る驚きの大発見を日本の調査チームが成し遂げた。ピラミッド内部に全長30メートルの空間があることが明らかになった。日本の調査チームは素粒子を使い大ピラミッドを透視した。4500年間閉ざされてきた扉がついに開かれる。
武田真一と鈴木奈穂子が登場。この国際プロジェクトはNHKが呼びかけ研究者が集結し新しい技術を開発し巨大ピラミッドに挑む。ピラミッドの内部を透視する技術で2年に及ぶ調査の結果、全長30メートルの未知の空間を発見した。
- キーワード
- ピラミッド
人類最古の文明の1つエジプト古代文明の象徴とも言えるのがギザの3大ピラミッド。4500年前この地を支配した王族が親子3代に渡って建設した巨大ピラミッド。中でも最大の大きさを誇るのが今回透視調査が行われたクフ王の大ピラミッド。圧倒的な富と権勢で古代エジプトに君臨したクフ王。高さ147mのピラミッドには長年考古学者たちを悩ませ続けてきた大いなる謎が秘められている。大ピラミッドは建造当時真っ白な化粧石に覆われていた。入り口はなく完全に封印されていたと考えられている。現在北側斜面にある入口は後の世に財宝を狙って掘り進められた盗堀口。狭い通路の先には大回廊が広がっている。高さ8m全長47m。日本がまだ縄文時代だった時に古代エジプト人はこの荘厳な空間を作り上げた。そして大回廊の先に大ピラミッドの謎が。後世の人によって王の間と名づけられた部屋の奥には棺のようなものが置かれている。しかしここからクフ王の遺品などは見つかっていない。盗賊の仕業なのだろうか。そうではなく大ピラミッドのどこかに隠された部屋がありクフ王が今も眠っているのではないかという説も長年語り継がれてきた。
クフ王の死後数百年のうちに書かれた貴重なパピルスの中にある一説がある。「クフ王は知恵の神トト神の聖なる秘密の部屋を探し求めた。自らのピラミッドに同じものを作るために」。秘密の部屋とは大ピラミッドの中に隠された魔法の部屋であると書かれて いる。しかしこのパピルスからこれ以上詳しいことは分からない。これまでに分かっている空間は盗掘口からつながっている部分だけ。その体積は大ピラミッド全体の1割にも満たない。謎となっている残りの9割以上の部分に何があってもおかしくない。秘密の部屋を見つけ出そうとこれまで世界中の研究者が挑んできた。フランス調査隊が石の重力を測定する計測器を持ち込んだ。床や壁のすぐ裏にある空洞なら見つけられるかもしれないと考え、疑わしい場所にドリルで穴を開けた。しかし何故か穴から大量の砂が吹き出し調査は中止。ドイツ調査隊が目をつけたのは通気口のように狭い謎の通路。小型カメラを備えたロボットを送り内部の撮影を試みた。映ったのは20cm四方の小さな石の扉。そこから先に進むことができなかった。
2015年、スキャンピラミッド計画が始まった。中核を担うのは高エネルギー加速器研究機構の高崎史彦名誉教授と名古屋大学の森島邦博特任助教。素粒子ミューオンを使って透視する。原理はレントゲンと同じで、ピラミッドの透視ではX線の代わりにミューオンを使う。
2015年10月、エジプト・ギザで調査が始まった。まず名古屋大学の若手研究者たちの調査チームが入った。リーダーは森島邦博特任助教。森島さんらは日本から透視フィルムを持ち込んだ。特別な乳剤を開発してこれまで火山や原子力発電所を透視してきた。クフ王の大ピラミッド内部にフィルムを並べた。
ピラミッド透視計画に参加するもう1つのチームが、2016年8月、エジプトにやって来た。名古屋大とは対照的なベテランで、高エネルギー加速器研究機構チーム。リーダーは、日本を代表する物理学者・高崎史彦さん。高エネ研は、名古屋大とは違う方式でミューオンをとらえる。フィルムの代わりに用いるのは、素粒子が当たると発光するシンチレーターと呼ばれる特殊な素材。この素材が発する光を解析することで、ミューオンをとらえ透視する。同様の装置が福島第一原発の廃炉計画でも、原子炉内部を透視するために用いられているが、高エネ研の装置には総重量400キロという厄介な問題が。これをピラミッドの奥深くにまで運び込まなければならない。難しい仕事を引き受けたのは、はちきれんばかりの筋肉を持つエジプト屈指の怪力男たち。目指すはピラミッドの中心部にある女王の間。丸2日かけてなんとか運び込んだ。高エネ研の透視装置が動き始めた。この透視装置と、あちこちに設置された合計1000枚に及ぶ名古屋大の透視フィルムで大ピラミッド内部を徹底的に透視し秘密の部屋を見つけ出す作戦。数か月にわたってピラミッドに降り注ぐミューオンを観測し続ける。
名古屋大が設置したフィルムの一部が日本に持ち帰られ、2016年7月、解析作業が始まった。この日、そのうちの20枚の解析結果が出た。フィルムが設置されていたのは、王の間や大回廊の真下に位置する女王の間。フィルムがとらえるのは女王の間から真上を見上げたアングルの画像。フィルムは上を見上げた格好で降り注いでくるミューオンをとらえる。王の間と大回廊は空洞のため、その方向からはより多くのミューオンがやって来る。その結果どんな画像が得られるのかコンピュータでシミュレーションした。王の間と大回廊の形がまるで影絵のように映し出された。もし秘密の部屋が存在すれば、実際の透視画像には王の間や大回廊とは別の影が映し出されるはずだが、森島さんが大回廊の隣に別のおぼろげな影を発見。さらに、10m離れた場所に設置したフィルムもこの影をとらえていた。森島さんはその大きさに驚きを隠せない様子。もしかしたら大回廊のそばに未知の巨大空間があるのではないかと期待が膨らむ。もし本当に未知の空間があれば、4500年間、未盗掘の状態が保たれたと考えられる。だとすれば、その考古学的価値は計り知れない。
古代エジプトの王の墓が未盗掘のまま発見されたことは一度もない。ツタンカーメン王の墓はほぼ未盗掘で残されいてた。ツタンカーメン王のミイラが納められた黄金のマスクは古代エジプト王国の圧倒的な財力を今に伝えている。ツタンカーメンは短命な王だった。一方クフ王は30年近く君臨したと言われている。クフ王の副葬品が見つかればツタンカーメンを超える発見かもしれない。
2016年11月、名古屋大学と高エネ研のメンバーが東京・NHKに集まった。2つのチームはあえてこれまで途中経過を共有せずに解析を続けてきた。名古屋大学の森島さんは大回廊の横の巨大空間の影を解析し、空間は大回廊より高い場所にあると発表した。高エネ研の研究結果は全く異なり、大回廊の横の空間は透視できていなかった。高エネ研の透視装置は大回廊の真下に設置されたが、未知の空間と重なっていた場合見えなくなるという。一方で名古屋大学のフィルムは大回廊の真上を捉えることができる。未知の空間は本当に大回廊の真上にあるのだろうか。
メンバーは再び大ピラミッドへ向かった。装置の位置を大回廊の真上を捉えられる場所までずらし、再び透視することに。未知の空間がはっきり映し出されている。異なる2つの手法で未知の空間が事実として確認された。そして大ピラミッドの謎に迫るさらなる発見が。きっかけはカナダ調査チームの赤外線調査。北側斜面に何故か他と比べて温度が高い場所が見つかった。温度が下らない理由は石壁の向こうに空間があるためではないかという推測が生まれた。そこで名古屋大がこの場所の調査に乗り込んだ。石壁のすぐ下のフィルムを設置し透視。人が1人通れるくらいの通路のような空間があることが分かった。しかもその空間はピラミッド中心部に向かってのびているようだった。巨大空間に繋がる通路なのかもしれない。大ピラミッド内部に潜む新たな構造が浮かび上がってきた。
スキャンピラミッド計画の本部があるパリで最終的な解析が行われた。日本の2チームにフランスの調査チームも加わり、フランスチームは日本の発見を受けピラミッドの外側から確認を行った。得られた透視結果をすべて照らし合わせ未知の空間の位置や大きさをより詳細に突き止める。解析の結果未知の空間は全長30m、体積は王の間の1.3倍にも及ぶ巨大なものであることが分かった。それが地上50~70mの位置に存在する。
スタジオに、発見された未知の空間がどんなものなのかを実寸大で再現。長さは30m、縦・横はそれぞれ4m。実際の空間はまだ正確な形がわかっていないため、再現した模型はあくまでもスケールを実感するために作られたもの。河江さんは「大ピラミッドの中にこれだけの未知の空間があるとは…にわかに信じ難い大きさのもの」と驚いた。この空間を発見した調査チームの森島邦博さん、高崎史彦さんがスタジオに登場。高崎さんは「王の間も女王の間も大きいが、それよりも大きい」と驚いた。森島さんは「この模型は大回廊よりも高さが低くて幅が広い そこまではわかっているが、詳細な形はわかっておらず複数の空間がつながっている可能性もある」と話した。ミューオン透視の技術が日本で進んだのには福島第一原発事故があったため。高崎さんは「事故が起きて直ちにチームを作ってやりだしたが、そこで磨いた技術が生かされると思う」と話した。この空間の中にはミイラや財宝が眠っている可能性もあり、河江さんは「クフ王の遺体が収められていたと思われる場所は、天井にヒビが入っている。そのヒビもおそらくピラミッドの建造中に入ったものと推測されており、研究者によってはヒビの入っている場所に本当の王の遺体を埋葬しないのではないかと言う人もおり、新たに別の部屋が作られてミイラが埋葬されたと考えている人もいる。それがもし今回発見された空間であれば、ミイラがある可能性もある」と話した。また、「これまでの埋葬習慣からすると財宝があって然るべきなので、財宝があったらすごい」と話した。番組では、巨大空間の中に何が眠っているのか、最新の研究から検証した。
今回発見された巨大空間の中には一体なにがあるのか探る手がかりが近年相次いで見つかった。クフ王の大ピラミッドから200キロ以上離れた紅海沿岸部で、クフ王が建造した巨大な港の遺跡が発掘された。400メートル以上の船着き場であり、周辺ではイカリなどが見つかった。近くの岩山には30に及ぶ船の倉庫が見つかった。さらに初めてクフ王時代のパピルスが発見された。パピルスには外国との交易をうかがわせる記述があった。ソルボンヌ大学のピエール・タレ教授は巨大空間にはクフ王の交易範囲の広さをうかがわせるものが眠っているのでは考えている。タレさんによるとクフ王はメソポタミアからアフガニスタンに及ぶ地域と交易し、金や象牙の供給地プントとも交易していた可能性があるという。タレさんは発見された空間には想像を絶する品があるかもしれないと話した。
アメリカ・ハーバード大学で去年、重要な研究成果が発表された。クフ王が母親のために作らせたという黄金の椅子「ファルコンチェア」。椅子が発見されたのはクフ王の大ピラミッドのすぐ脇にあるクフ王の母の墓。部品がバラバラになっていたが、ハーバード大学は最新技術で1年半をかけて元の形を再現した。復元を担当したピーター・マニュエリアン教授はこの椅子が巨大空間内部のヒントになるという。ピーター教授は椅子に使われた金は現在のスーダンから、木材はレバノン、銅はシリアから、空間の中にあるのは国際色豊かな素材を使った品々かもしれないと話した。
クフ王の一族はエジプト史上の中でイノベーター=革新者であるので、イノベーターが作ったものがまだあるかもしれない。未知の空間がどこまで広がっているのかを明らかにすることで、これからの破壊、穴をあけることを最小限にできる、などと河江肖剰が話した。森島邦博はなるべく色々は方向から立体的に見ていくと次のステップに進めるのではないかと話した。
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大ピラミッドの調査は新たな段階に向けた準備が進められてる。フランスの研究期間が開発した特別なドローンは壁にごく小さな穴を開け、そこに折りたたんだドローンを挿入し壁の向こう側で浮かべて空間内部を縦横無尽に撮影することができる。森島さんたちは透視調査の範囲を大ピラミッド全体へと拡大している。